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2016-12-10 00:00
トランプ相場に待ち受ける危ういシナリオ
田村 秀男
ジャーナリスト
米国の株式市場はまさに「トランプ相場」である。株価は上昇、ドル高にはずみがついた。そのおかげで日本も株高だ。熱狂は持続するだろうか。まず起きたのが「ヒラリー相場」である。オバマ政権第1期の国務長官を務めたヒラリー・クリントン民主党候補に対し、米連邦捜査局(FBI)が私的電子メールを通じて国家機密を漏らしたとする疑惑について、7月5日、訴追しないと発表した。共和党のトランプ候補に対し、世論調査で優位に立つクリントン氏最大のアキレス腱が不問に付されるというので、株価は急騰した。クリントン政策はオバマ政権の継承というわけで、穏やかながら回復軌道にある景気の先行きを見通せるからだ。
対照的に、トランプ氏は保護貿易主義や移民排斥の主張を繰り返し、民主、共和の両党の主流派が進めてきたグローバリズムを逆流させようとするので、市場は警戒した。ヒラリー相場は9月になると陰りを見せる。トランプ候補の支持率が上昇しはじめ、9月半ば過ぎにはほとんど差がなくなった。株価は下落、上がりかけてもまた下がる状態が10月になっても続いた。追い討ちをかけたのが、10月28日のコミーFBI長官によるクリントン氏への再捜査開始声明である。これでヒラリー相場は完全に終わった。両候補の支持率は再び接近した。投票日直前の11月6日、クリントン氏の私用メール問題で捜査を再開した件について、訴追しないという7月の結論は変わらないと、改めて表明した。8日の大統領選直前の世論調査では「クリントン優位」と米メディア大多数が報じたが、予想は完全に外れた。
株価のほうはFBIの最終結論を待たずに、クリントン候補に見切りを付けトランプ相場へとカジを切っていた。11月4日を底に、あとは一本調子で上昇していく。困窮化する白人中間層など有権者の多くは、トランプ候補の女性に関する数々の乱暴な発言にこだわらず、現状打破の期待をトランプ氏に寄せていた。世論動向を背景に、実利重視の市場のほうは積極的な財政出動など経済政策を直視する。株価とトランプ支持が連動するようになったのだ。クリントン氏は選挙後、FBIの再捜査が敗因とぼやいたようだが、代わり映えのしない政策しか出せなかった。
同じころ、長期金利(10年もの米国債利回り)が急騰している。財政出動による景気刺激とインフレ効果を市場が評価しているからだ。金利高、株高がドル高を呼ぶ。おのずと円安・日本株高になる。日銀緩和の効能がなくなった日本には朗報のように見えるが、危うい。米金利高、ドル高は本来景気を冷やす。トランプ政権が来年1月20日に発足する頃に、米国の輸出が打撃を受け、景気回復に水が差されているようなら、トランプ新大統領は日本などに対し、何を言い出すかわからない。
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