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2016-12-01 00:00
年内解散は領土交渉大幅進展のケースのみ
杉浦 正章
政治評論家
民進党幹部が政治部OBとの会合で「まるで好戦姥捨賭場内閣」 と安倍政権を批判していたが、一同うなずいていたものだ。たしかにこの臨時国会で安倍政権は、南スーダンへの駆けつけ警護、年金カットや医療費自己負担増など高齢者に厳しい政策、刑法違反のばくちを公認するカジノ法案など国論を二分する政策や法案を、これでもかと言うほど実施しようとしている。にもかかわらず読売の調査では内閣支持率は最高の61%を維持。ここは、掛け値なしの支持率調査である「衆院解散」をやってみないと、国民の真意は分からないということになるが、案の定読売の分析だと自民党は単独過半数238を維持出来ない可能性がある。そうなれば再来年の自民党総裁・安倍晋三の3選まで危うくなるのだが、首相・安倍晋三は年末解散、1月総選挙に踏み切るだろうか。可能性は1割程度はあるとみなければいけないと思っている。たしかに、このところ安倍内閣は、いけいけどんどんの様相が濃厚だ。周りはごますりばかりで、止めるものがいない。自民党幹部も、すこしは骨のある男と思っていた幹事長・二階俊博が率先してお先棒を担いでいる。たしかに国政選挙に4回も勝つという歴代内閣にない「驚異の偉業」を成し遂げたのだから、選挙の神様は田中角栄どころか、安倍がそう呼ばれるべきだろう。
党内は上から下まで安倍に任せておけば大丈夫という空気に満ちている。特に自民党291議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の「安倍チルドレン」 に至っては、切迫感が消え、落選などあり得ないような“自信の人”が多い。風で当選した議員は、真逆に風で落選することを知らない。この油断が命取りになるのだ。それに、安倍政権は70歳以上の高齢者層に支えられている、と言っても過言ではない。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合も25.0で最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。その高齢者層は保守的傾向があり、とりわけ中国の膨張政策や北朝鮮の核・ミサイル実験などへの反感が激しく、これに対峙する安倍を支持し、自民党への投票行動につながっている。尖閣漁船衝突事件にうろたえた民進党政権などもうこりごりなのだ。ところが最近の中国も北朝鮮もなぜか静かになってきた結果、国民の目は内政に向かっている。
その内政で高齢者の神経を逆なでしている最たるものが、年金法案である。主に感情論で反発している傾向が強い。「百年は安心」と言われて、せっせと高額な年金を支払い、やっと受け取れるようになったかと思えば、消費増税先延ばしの尻ぬぐいをさせられる、という感情論だ。しかしこの感情論は伝搬しやすいし、共感を得やすい。かつての「消えた年金」に匹敵した反発を招きつつある。もっともこの高齢者層の反発は、メディアが取り上げない。なぜなら新聞テレビの現役世代も、年金への不安が大きく、高齢者のことなど考慮しない傾向が濃厚であるからだ。世代間ギャップだ。従って高齢者の憤りは、潜行したまま選挙で爆発する仕組みとなっている。
先の参院選は、野党の「環太平洋経済連携協定(TPP)は農村切り捨て」プロパガンダが成功して、32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから、大躍進だ。こんどは野党が「年金カット」を絶好の材料として、チャレンジすることは間違いない。読売が、2014年衆院選の全295小選挙区で野党4党が候補者を一本化した場合の当落を試算したところ、最大で59の「逆転選挙区」が生じる可能性があることが分かった。与党は14年衆院選で326議席を獲得したが、憲法改正の国会発議に必要な定数の3分の2(317)を割り込む267議席となりそうだ。59の逆転選挙区の内訳を見ると、公明党3に対し、自民党は56の減。自民の獲得議席数は計291(追加公認1人含む)から235まで減る計算だ。衆院の単独過半数(238)を維持できない。純粋に選挙技術的に見て、こうなると予想されるのだ。これに「高齢者の反乱」が乗るから、さらにマイナス要素が加わる。
自由党の小沢一郎は最近「年末か年始の衆院解散を前提に選挙準備を進めている。今後の1カ月で何としても野党の連帯の形をつくり上げたい」「野党4党が単純加算したら、それだけで自民党に勝つ。衆院早期解散を前提に今年中に連携を作り上げないといけない」と発言している。これは読売の調査を根拠にしたものだろう。自民党が惨敗した場合には、安倍は「選挙の神様」のメッキがはげ、「ただの人」 となる。自民党内は「ポスト安倍」 勢力が動きやすくなる。これを阻止する方法はただ一つある。それは12月15日のプーチンとの会談で北方領土問題が大きく前進することである。安倍は、先のプーチンとの会談の後「道筋は見えてきているが、大きな一歩を進めるのは容易でない」「70年間できなかったわけで、そう簡単な課題ではない」と可能性を否定したが、これが会談の成果をプレイアップするためのフェークであった場合のみ、解散が可能になる。「2島返還、4島の帰属は日本」という日本の主張が通れば、現議席維持も夢ではない。中曽根康弘の「死んだふり解散」に酷似した戦略だ。しかし、たとえ芝居であっても、プーチンが参加しているとは思えない。だから解散の可能性は1割なのだ。現状維持するには、解散を先延ばしにして、絶好のチャンスを待つか、作り上げるかしかないだろう。
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