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2016-11-14 00:00
(連載2)米国大統領選挙結果をどう評価するか
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
今回の米国大統領選挙で明白になった米国社会のこの大きな変化のうねりは、最初に言及したように、世界各地で起こっており、米国社会だけのことではありません。ギリシャ、スペイン等々で一昨年から昨年に起こった緊縮財政への一般国民の反乱、英国民によるEUからの離脱(Brexit)表明や、EU諸国で現在国民の間で深刻な亀裂をもたらしている「移民問題」への対応、さらに、日本国内で今年8月に見られた東京都知事選挙における自民党や民進党等野党という既成集団に支えられた候補者を大差で破った小池百合子氏の選出、現在韓国で怒涛の如き勢いで席巻している朴大統領への国民的抗議等で明白なように、世界の先進諸国や新興国にも既に起こっていることです。その本質は、所得・社会・格差の拡大、若者の失業率の高止まり、貧困ライン以下で社会の底辺にいる一般大衆による既得権益者・既成勢力Establishment)への挑戦であった点を強調したいと思います。今回の米国大統領選挙でのトランプ氏の勝利は、この世界的なうねりの米国での反映ということを理解することが必要と思います。
その意味で、政治的・軍事的影響力で相対的に低下したとはいえ、相変わらず世界のGDPの4分の一を占め、巨大なそこ力を有する米国で、トランプ氏が如何に、このような世界的な大きなうねりに対応していくかが、今後の米国にとってのみならず、世界の人々・政府にとって非常に重要です。確かに、トランプ氏の選挙期間中の発言には「暴言」(オバマ大統領は米国生まれでない、クリントンさんは嘘つきだ、パリ協定は誰かのでっち 上げだなど)が多かったのは事実です。しかし、1980年代からのレーガン政権の下で急速に進展した経済のグローバル化、1990年の米ソ冷戦体制の終結後に頭角を現してきたEU、特にドイツの中東欧への勢力拡大、中国を初めとするBRICSの台頭に代表される世界経済・政治体制の多極化の中で、次第に低下してきた米国の指導力が低下してきたのは明白な事実です。「強いアメリカを再生する」という、彼の選挙戦での訴えは、多くのアメリカ人、特に「強力なアメリカ」と共に戦後生きてきた高い年代層に「夢をもう一度」意識をよみがえらせたこと、また白人低所得層の支持につながった面は否定できないでしょう。
しかし、オバマ大統領とは異なり、政治家としての経験がなく、ましてや世界的なstatesmanshipをもたない、理念よりも現実の利害を優先するトランプ氏が、今後人権とか普遍的価値観を全面に出した理念に基づく外交政策をとるとは思えません。理念を重視したオバマ大統領がとった外交政策で特徴的な中近東地域での紛争への介入、ロシアへの経済制裁、アジア地域でのリバランス政策等への変化はあり得るでしょう。しかし、大統領へ就任した後のトランプ氏は、米国が世界でおかれている現実を直視した時に、選挙期間中に訴えてきた「米国の利益優先」に基づく何らかの政策に踏み切ることはあり得ると思いますが、国内では、相変わらずトランプ氏を米国大統領として迎えたくない若者を中心としたデモが米国各地で展開されており、海外からは既にEU諸国、日本、新興国をはじめ多くの国々の首脳から、米国の国際協調・協力政策維持を訴えられており、「総ての米国民の大統領として行動する」ことを11月9日の勝利宣言で明白に誓ったトランプ氏としては、現実的な政策へ舵取りを移していくと考えます。議会両院でも過半数の議席をとった共和党も、共和党主流派本来の政策を推進するものと考えます。
結論からいえば、トランプ外交は、真正面からの内向きな政策、孤立主義的政策への転換は抑制され、逆に強いアメリカの再現として、中近東、ロシア、中国、そして日本等とも相互利益を追求する外交政策をとるのではないかと考えます。過って1971年にニクソン米国大統領がとった所謂ニクソンショックで代表された米国民の雇用拡大、米国企業の国内投資への優遇策、米国の国際収支の均衡化、さらに「世界の警察国家」としての米軍海外派遣の縮小ないし当該国費用負担、「世界の博愛国家:自画像?」としてしての役割再考による国際開発協力の削減等が、トランプ新大統領が考えうる喫緊の経済外交政策でしょう。その意味で、今後の日本外交も、従来と同様でよいとは考えにくいのは当然です。実利的なトランプ大統領の登場により、新しい時代・潮流に合致した日米同盟、広い視野に立った日本の国益、国際的な合意形成を大切にする早急な外交政策への再考が求められていると言ってよいでしょう。(おわり)
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