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2016-11-11 00:00
繰り返される各国の内向き政策への対応
熊谷 直
軍事評論家
トランプ氏の思いがけない米大統領選勝利に、さまざまの受け止め方がなされている。私は、歴史は繰り返すという面から、軍事史専門家としての立場から意見を述べてみたい。第一次世界大戦は、大英帝国と呼ばれていたイギリスと普仏戦争に勝って力を誇示し始めたドイツ、それに日露戦争に負け国内が不安定になりつつあったロシアの力比べの結果として始まった。日本をロシアと戦わせるように仕向けたのは、米英独仏などの欧米各国である。日本を開国させたのは、商売のためや捕鯨の基地として日本を利用しようとしたこれらの欧米各国であった。太平洋と大西洋で欧州から隔離されていたアメリカは、漁夫の利を得ることができる立場にあった。イギリスはそのようなアメリカを第一次世界大戦という戦争に引き入れ、さらには日本にも働きかけて味方に引き入れ、最終的に勝利者の立場に立つことになった。役者は現在の世界とあまり変わらない。地政学的な要因が昔も今も変わっていないからであろう。
敗れたドイツは賠償金の支払いに苦しみ、国民の不満がナチスドイツを生んだ。同時にガス兵器、生物兵器、戦車、飛行機という新兵器が、その後の戦争の様相を変えるであろうことを軍人たちが自覚し、戦争形態の変化に対応できるように軍事組織や戦略、戦術を改革し、その背後にある軍事生産力を平時から育てることに力を注ぐようになった。軍艦の燃料が石炭から石油になったことで、イギリスは中近東を勢力圏に取り入れることに力を注いだ。金融力を持つユダヤ人にイスラエル進出を許し、現在の中東の混乱の原因を作ったのはイギリスである。もともとはっきりした国境などはなかった中東を今のような国境で区切られた形にしたのはイギリスであり、その施策はのちに、アフリカ大陸にも適用された。核兵器はそのような兵器の発達の延長線上に出てきたのであり、のちに日本は、実験台として犠牲にされた。
さてトランプ氏であるが、ヒトラーに比肩できる思想を持っているのではないかと思われる。白人至上主義的な性格は貧窮の家庭で育った幼児体験からくるものがあるのではないかと思われ、ヒラリー女史のような裕福で活動的な女性とは距離を置きたいという感情は、女性は家庭を守るものという思想を持っていたヒトラーとも共通するものがあるのではないか。ヒトラーの軍事的な膨張主義に対抗したのは、穏便に事を運ぼうとするイギリスのチェンバレン首相であったが、アメリカでは当時、フーバー大統領が第一次大戦後の恐慌を抑え込むのに失敗し、増える失業者に対応せねばならないということでは最近のアメリカと同じ状況にあった。また対外的には、日本と中国の満州での対立に中立的消極的な立場に立っていた。このとき民主党のフランクリン・ルーズベルトが、失業者対策にもなるニューディールと呼ばれる対内的積極策や健全財政を説き大統領に当選した。現在の穏健なオバマ大統領がかつてのフーバー大統領同様に消極的な政策に傾いていたのを、積極的なトランプ候補がひっくり返したのと似ているとは言えまいか。第二次世界大戦前のチェンバレン英首相は、穏健な解決を目指してEU離脱問題を国民投票に任せてしまった先ごろの英首相に似ているといえそうである。
民主党だからとか共和党だからというのではなく、いつの時代でも貧困層の心をつかむ政策を主張したものが、選挙に勝ったのである。ルーズベルトはその後、日本を経済的に締め上げることで日本を対米開戦という無理な行動に追い込み、イギリスのチャーチル首相がアメリカに要求していたナチスとの戦いに参加して、水面下ではなく表立っての連合作戦を戦うことにすることに成功した。アメリカにとっては、日本との戦いよりもナチスドイツとの戦いのほうが本番であった。これは日本の敗戦後の占領政策に、皇室制度を残すことに腐心し、日本国憲法をアメリカの都合の良い形に持って行った過程を見るとよくわかる。日本として気をつけなければならないのは、トランプ大統領が日本を軍事と外交あるいは経済の面で締め上げて、内向きの政策をとろうとしているアメリカの意のままに従わせようとしていることであろう。そのときに切り札になるのは、黙っていると沖縄諸島が中国のものになってしまう危険性が非常に高いことである。これまで日本の安全が、アメリカの手中にあったことに気付いていない日本人が非常に多く、一方では、蓮舫女史のように元外国籍の政治家が日本を牛耳ろうとしている。誰とでも仲良くを建前にしている平凡な日本人は、トランプ的な人物に対抗するすべを持たない。日本人が、もう一度敗戦時と同じ苦労をすることになることは避けなければならない。
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