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2016-11-07 00:00
ラッカにみる混迷するシリア情勢
川上 高司
拓殖大学教授
シリアの内戦は、米露の停戦合意期限が切れるや否や戦闘が開始され、一向に解決の糸口すらつかめない。アメリカ大統領選挙でもシリア問題は話題にすらならなくなっている。シリア問題にはトルコの協力が不可欠であるにもかかわらず、トルコとアメリカの関係は険悪で、エルドガン大統領はアメリカには非協力的である。折しもシリア北部の街ラッカをISISから奪還しようという軍事作戦が、今にも始まろうとしている。
ラッカはISが強固な支配をしており、外部へのテロの拠点となっている。この街を奪還すれば外部でのテロができなくなるとアメリカは見ており、ラッカの奪還作戦は最優先となっている。この作戦はアメリカ軍が関わるのではなく、シリア反政府軍であるシリア防衛軍(SDF)に実施させることがアメリカの方針である。シリアの人々が自分たちの手で自分たちの街を取り戻すということが重要であるとアメリカが考えるのは、イラク侵攻で学んだ教訓だろうがアメリカは極力軍事作戦に兵を出したくないという本音が根底にはある。
しかし、その作戦にトルコと周辺のアラブ諸国が反対しているのである。シリア防衛軍といってもその実態はクルド人兵士がほとんどであり、トルコから見れば「SDFはクルド軍でありテロ組織」ということになる。トルコ政府にとってクルド人組織はテロ組織なのである。ラッカをクルド人が支配するなどとうてい受け入れられないのだ。そもそもトルコとアメリカが険悪になっているのも、トルコが目の敵にしているクルド人をアメリカが支援しているからである。アラブ諸国もクルド人が中東で勢力を強めることには警戒している。シリアはアラブ人の国だからアラブ人主体の軍がラッカを奪還するべきだと主張し、アメリカが進める奪還作戦に待ったをかけている。
10月26日にはNATO会議の傍らでフランスとトルコとアメリカの国防長官が会談したが、事態は進展しなかった。アメリカから見ればクルド人の軍は軍組織として確立されて機能しているし、何より信頼できるという。「アメリカ人が味方に誘拐されることを心配しなくてもいいということは大きい」との声も聞かれる。それぞれの思惑が小さな街ラッカをめぐって渦巻いているがラッカはいったい誰のものなのか。そこに住む住民の声は届かない。
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