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2016-10-20 00:00
総裁任期延長だが、不確定要素山積
杉浦 正章
政治評論家
自民党総裁の任期が延長となり、首相・安倍晋三に長期政権の道が開けた。現職の首相が総裁選で敗れた例は、過去にたった一度しかない。角福怨念の戦いで大平正芳に敗れた福田康夫だけだ。1978年の総裁選は、筆者も自民党平河クラブキャップだったから、忘れもしない。田中角栄の家に朝駆けすると、角栄は「今日も徹夜でやった」と多数派工作の話をしてくれた。なんと夜中に起き出して、地方の実力者に片っ端から電話するのだ。相手は寝ぼけ声で出てきても、角さんからの電話と分かると「とたんに笑顔になって」(田中)話を聞いてくれたそうだ。もちろん「大平を頼む」と電話したのだ。当時は党員・党友の投票による予備選挙があって、これが総裁選の帰趨を左右した。角栄はそこを狙ったのだが、福田はこれに全く気がつかず、楽勝と判断していた。首相官邸の会見でも「全国津々浦々だけでなく、世界が福田を求めている」、「福田再選は天の声」と意気軒昂。ところがふたを開けると、大平が予備選に大差で圧勝。平河クラブで記者会見した福田は、筆者が「天の声はどうだったですか」と尋ねると、「天の声にも変な声もたまにはあるな、と、こう思いますね。まあいいでしょう! きょうは敗軍の将、兵を語らずでいきますから。へい、へい、へい」と、笑ってごまかした。福田は「予備選で負けた者は国会議員による本選挙出馬を辞退するべき」とかねて発言していたため、本選挙出馬断念に追い込まれた。
なぜ現職首相が強いのかと言えば、答えは簡単だ。一つは、首相を支持しなければ自らの選挙に不利になる可能性が強いからだ。とりわけ小選挙区制になってからは、首相とその配下の幹事長の支持不支持が決定的と言ってもよいほどの影響を与える。さらに重要なのは、多くの首相が総裁選をするまでもなく国政選挙の敗北や失政で退陣しているからである。とりわけ2006年から12年までは、7年連続で毎年首相が代わっている。小泉純一郎→安倍晋三→福田康夫→麻生太郎→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦→安倍晋三といった具合だ。竹下登は「歌手1年、総理2年の使い捨て」が口癖だったが、安倍が就任する前までは、1年の使い捨てであった。反主流的な立場を選んだ石破茂は「政権は長くあると劣化する」と述べているが、この言葉は我田引水だ。佐藤栄作 2798日 、吉田茂 2616日 、小泉純一郎 1980日、 中曽根康弘1806日 、池田勇人 1575日、岸信介 1,241日が劣化したかと言えば、その劣化度は少ない。むしろ1年で終わった政権の劣化度の方が著しい。
たった一年で劣化してしまったから交代になったのだ。世界的に見ても米国大統領は8年、ロシア大統領は12年、中国主席は8年、ドイツ首相の任期は4年だが、任期に制限がなく、名宰相メルケルは12年も務めている。オバマやプーチンやメルケルが劣化したかというと、全く劣化していない。劣化するしないは人によるのだ。国際外交的にも新参者の指導者が一目置かれるまでには時間がかかる。サミットの席順が物語るように在任期間が長い指導者ほどよい場所を占める。国際外交の世界では、指導者同士の面識が1番重要なのであり、日本のように1年ごとにころころ変わる首相は、注目されないのだ。自民党総裁の任期は2期6年から3期9年までか、または無制限となる。副総裁・高村正彦が最終判断する。この結果安倍は再来年18年の総裁選挙に立候補できることになった。外相・岸田文男も最初のうちは「3年間の任期のさらに先のことを話すのは気が早い」とぶつくさ渋っていたが、「形勢悪し」と見てか、「無駄な抵抗はやめよう」という姿勢に転じた。禅譲路線が選択肢だが、安倍にさらに5年もやられては先は見通せない。野田聖子も依然泡沫候補気味だ。
もし仮に再来年の総裁選で安倍が勝利し、任期すべてを務めた場合、第1次政権と合わせた在任期間は3500日余りとなる。戦前最長の桂太郎や戦後最長の佐藤栄作を超えて、歴代最長となる。しかし、こればかりは捕らぬ狸の皮算用。政治的には総裁選の前に国政選挙に勝つことが先決である。安倍の支持率は高いが、1月の総選挙を狙った場合、TPP(環太平洋経済連携協定)、PKOへの駆けつけ警護付与、北方領土問題と重要課題がひしめいており、国論分裂の様相が強くなる。これを乗り越えて1月総選挙で自民党290議席、公明党と併せて3分の2の多数を維持出来るかどうかは全く未知数だ。従って再来年の総裁選はいまのところ安倍に有利ではあるが、その実は不確定要素も多いのだ。また3選された後の政権が3年の任期を全うしてオリンピックを無事こなせるかどうかの予測などは、鬼が笑うどころか、あきれるだろう。安倍丸はこれからがまさに波瀾万丈の海域にさしかかるのだ。
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