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2016-10-06 00:00
蓮舫質問は政治の基本構造を理解していない
杉浦 正章
政治評論家
「総理逃げないでください」「総理、そういう答弁恥ずかしくないですか」「そういう大臣に危機感を覚える」などなど。一般視聴者や駆け出し政治記者が聞くとさも見事に追及しているように感じさせるテクニックだが、政治分析のプロから見ればむなしく聞こえるばかりだ。注目された民主党代表・蓮舫の参院予算委における質問は、憲法問題にせよ、政策課題にせよ、民放キャスター的な浅薄さが際立った。これは政治の基本的な構造に対する理解の欠如から来ている。代表になってからの民進党支持率も依然低迷しており、とてもこの代表では政権を追い込むことなどできないと感じた。前原誠司の方が格段と追及能力があった。民進党は判断を誤った。
まず蓮舫が執拗に追及したのが憲法問題で、安倍が自民党改憲草案に対する逐条的なコメントを拒否している問題だ。蓮舫は「なぜ予算委で憲法の審議をしないというのか」と、押し問答のように繰り返した。安倍は「行政府として答える立場にない」と拒絶した。蓮舫は執拗に安倍に見解を迫ったが、はっきり言って八百屋でタコをくれと言っているようなことであることが分かっていない。自民党副総裁・高村正彦が正確にコメントしている。高村は「内閣は憲法改正については何の機能もない。予算委で答弁を強要するのはナンセンスだ。首相に憲法改正の答弁を強要するのは、お門違いだ」とこき下ろしたが、当然だ。蓮舫は憲法自体を読んでいない。改正はそもそも96条で「国会の発議により行う」となっている。加えて99条で首相は現行憲法を「尊重擁護」する義務があるのだ。現行憲法順守の義務が課せられている以上、政府側から改正内容の発議もできないし、意見も述べにくいのだ。この基本構造を理解しないまま、蓮舫はまるで一般の法改正であるかのように、制度を誤解し、追及している。政治の基本構造を理解していない証拠だ。
さらに蓮舫は自民党の憲法改正草案にある家族条項にもかみついた。「家族は自然かつ基本的な単位として尊重される」の部分だ。「これは妻と夫が不平等の時代へと戻る」というのが批判の理由だ。戸主に家の統率権限を与えていた明治憲法下の民法における「家制度」へと逆戻りしてしまうというのである。しかし、これも曲解以外のなにものでもない。自民党案は世界人権宣言16条や国際規約23条にある「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」に準拠したものにほかならない。むしろ家族の平等性は担保されており、蓮舫の邪推のような批判は当たらないのだ。ここでも政治の基本構造を理解していないで、デマゴーグ作りに専念する姿勢が現れている。
固唾をのんで議論の展開が見守られたのが「女の戦い」だ。衆院で辻元清美が稲田を泣かせた例もあり、蓮舫は今度は号泣させるとばかりに、「稲田いじめ」に取りかかった。辻元も、蓮舫も、年増女のいじめは、あの手この手で底意地が悪く、嫁いびりのようでいやらしい。稲田が野党時代に月刊誌で「子ども手当をそっくり防衛費に回せば、軍事費の国際水準に近づく」と述べた事を鬼の首でも取ったかのように追及した。しかし稲田は、安倍の手ほどきを受けたのか、民主党政権時代のていたらくと関連させて答弁するという“逆襲”に出た。「政権が変われば、野党時代に言ったことは何でも関係ないということか」との追及に「『日本列島は日本人だけのものではない』という方が首相になられ、辺野古(移設)について『最低でも県外、国外』と言われ、たいへん混迷し、尖閣で中国の船が衝突して大混乱になっていた。当時の政権に危機感をもって指摘した」と反論。蓮舫は「そういう大臣に危機感を覚える」と切り返したが、こじつけの的外れであった。稲田は民主党政権がマニフェストで子ども手当を創設するとしながら財源がなく、空約束にとどまったことを指摘して「財源のない子ども手当を主張するくらいなら、軍事費を増やすべきではないかと言った。財源がない中での発言だった」と切り返した。
蓮舫は稲田が主張した核保有論についても追及したが、稲田は「現在全く考えていない」とかわした。総じて稲田は答弁技術を身につけ始めた。蓮舫もたじたじとなって、「気持ちがいいくらいの変節だ」と毒針を吹いたが、この捨てゼリフからみても6対4で稲田の勝ちだった。蓮舫は就任以来批判より提案を重視する方針を明らかにしたが、本会議に次いで予算委でも提案といえるものはなかった。逆に揚げ足取りが目立った。追及に精一杯で、余裕は感じられなかった。高村が「批判100%、提案0%だ。こういう姿勢を早く変えてほしい」と指摘するのも無理はない。
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