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2016-08-31 00:00
米国に振り回されると円高は加速する
田村 秀男
ジャーナリスト
円高が続いている。夏場で外国為替市場の商いが薄くなり、投機筋が操作しやすくなっているのだが、投機筋は国際金融の流れに棹さしているだけである。流れとは、日米の実質金利差である。実質金利は、日米の10年物国債の利回りからそれぞれの消費者物価上昇率を差し引く。米国の実質金利は日本を上回っているが、その幅が相場に影響する。通貨の値打ちというものは、その通貨を代表する金融資産である国債の名目金利が高ければ上昇し、インフレになれば下落するというのが、市場のセオリーである。今の円高・ドル安は、市場実勢そのものというオバマ政権の主張には反論しにくい。
それにしても、日銀は年間80兆円もの国債の買い上げに加えて、国債金利を押し下げ、2月にはマイナス金利政策まで採用したのに円高を止められない。なぜか。借金だけが膨らむ中国リスクや英国の欧州連合(EU)離脱など欧州不安から、安全資産とされる円が買われる。米国債も同じ理由で買われており、円以外の通貨に対してはドル高になっているが、ドル以上に円への人気が高い、というふうな解説をよく聞くが、現象だけをとらえているのに過ぎない。
円高の真因は政治的であり、日本ではなく米国発、具体的には今秋の大統領選挙にある。民主党のクリントン、共和党のトランプ候補ともドル高に伴う産業競争力低下を恐れ、円高・ドル安のトレンドを維持させたい。ヒラリー候補を支援するオバマ政権は日本が円売り市場介入をさせないよう、しきりに牽制している。トランプ候補も日本が介入すれば、クリントン候補に負けじとばかりに激しく非難するだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げのためらいもある。トランプ候補はもともとFRBに敵対的だ。議会のほうは、11月の大統領選挙と合わせて下院議員の全員と上院議員の3分の1が選挙民の信を問われる。雇用情勢が弱い中で利上げすれば、与野党の多数がFRB批判を強めるだろう。FRBが利上げせず、インフレ率も現状のままだと、米実質金利は上昇しない。
このまま、日本の為替や金融政策が米大統領選挙に振り回されるような印象を市場に与えてしまうと、投機ファンドはますます円買い投機に興じるようになり、円高は加速しかねない。そのとき、財務省が市場介入するのは当然だが、実質金利差が短縮する中では介入効果は乏しい。鍵は日銀が握る。黒田東彦日銀総裁は最近の産経新聞・フジサンケイビジネスアイとの単独会見で、マイナス金利をさらに引き下げる余地ありと発言した。マイナス金利拡大に大手銀行は反発を強めているし、日銀内部でも慎重論が多いのだが、円高の行き過ぎはデフレを加速させる。黒田総裁は決断すべきだ。
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