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2016-08-26 00:00
国民性を逆用する「御用メディア」
田村 秀男
ジャーナリスト
8月11日の「山の日」に富士登山を敢行した。登山者のラッシュの中、ゴミらしきものはほとんど見当たらず、全員が整然と歩み、休む。10人中3、4人は外国人だ。金剛づえに日の丸をくくり付け、誇らしげに登るのは台湾を含む東南アジア、米欧、中東、中南米の人たちだ。国際的にも称揚される日本人の規律。その国民性を逆手にとって自己利益を追求するのは、経済の緊縮を是とする財務官僚とそれに追従する御用メディアだ。朝日、毎日、日経新聞はこれでもか、これでもかと緊縮財政を求める。突出しているのは日経で、財務省が10日に「国の借金」が6月末で1053兆4676億円になったと発表するや、国民一人当たりで約830万円の借金を抱えていることになると騒いだ。経済に多少でも精通していれば、すぐわかる詭弁である。
国債の9割以上は金融機関経由で国内の預金者が保有しているのだから、国民一人当たり約800万円の資産なのである。借金の当事者は財務官僚なのだから、それほど問題だと言うなら官僚は給料を返上すべきなのだ。日経はこの大本営発表のタイミングに合わせて朝刊1面で「日本国債」と題した記事を5回にわたり連載した。米欧系投資ファンドが投機の口実に使う日本国債の暴落不安要因を並べ立て、消費税増税と緊縮財政強化をせきたてる。最終回は15日の終戦記念日付で、敗戦時には国債が悪性インフレのために紙くずと化したと断じた。このときばかりは国債を「国民の借金」ではなく「資産」とみなすご都合主義だ。
8日には、天皇陛下が「生前退位」のご意向を示されたお言葉の中で、「健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶ」と懸念されたくだりには、とりわけ胸を打たれた。日本経済は元号が改まるたびに、大不況に襲われる。大正天皇崩御の4カ月後、1927年3月の「昭和金融恐慌」、昭和天皇崩御(1989年1月)後の「平成恐慌」である。いずれも政官の指導者による緊縮政策が引き起こしたが、その政策転換までには多くの年月がかかっている。
昭和恐慌の場合は、1932年12月の高橋是清蔵相まで待たなければならなかった。バブル崩壊を伴った平成恐慌は慢性デフレへと停滞局面が続き、2012年12月の第2次安倍晋三政権が打ち出したアベノミクスでようやく政策転換がなされた、と思ったら、財務官僚が敷いた罠にはまった。14年4月からの消費税増税と財政支出削減であり、浮上しかけた景気はゼロ成長とデフレ局面に陥った。安倍首相はようやくこの失策に気付き、消費税率の10%引き上げを2度にわたって延期したうえに、総事業費28兆円超の大型経済対策に踏み切ることにしたが、要は秋だ。安倍政権は執拗きわまる財務官僚や御用メディアによる緊縮包囲網を突破するしかない。
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