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2016-08-19 00:00
太平島と尖閣諸島が同列に扱われる可能性
牛島 薫
団体職員
7月12日の常設仲裁裁判所の判決は、国連海洋法条約(UNCLOS)の排他的経済水域(EEZ)に反する中国の「歴史的権利」を否定し、南沙諸島に「島」が存在しないとした点で非常に強いメッセージ性をものでした。日本統治時代の太平島で行われた鮪漁の中継拠点運営やリン資源採掘などの経済活動実績すら、「島」としての共同体の居住や経済生活の維持に相当しないという判断なのですから、中国にとってそれは極めてハードルが高かったと言わざるを得ません。たとえ「歴史的権利」などという抒情的な概念に拘泥せずに、国際法に基づいて「島」やEEZについて主張を行ったとしても良い結果は望めなかったでしょう。
戦前日本が行った港湾や宿泊施設などの経済資本の整備と経済活動、さらには神社などの文化活動もUNCLOSの示す「島」の条件を満たすには不充分であるとのことですから、最低でも集落のようなものを形成し、世代交代が島内で自立的に起こるような仕組みを持った高度な生活共同体が必要ということでしょう。これは、主権とは別次元の話ですから、南沙諸島だけでなく日本をはじめ世界中に多く存在する離島にとってもかなり高いハードルとなるのではないでしょうか。同判決の後、問題視されている人工島のみならず南沙諸島全域の島の「島」たる地位を否定された中国や台湾では、判決を皮肉って「沖ノ鳥は単なる岩」だとするキャンペーンを活発化させることで日本を牽制しています。以前から沖ノ鳥島を単なる岩だとしてEEZを否定する活動は、中国や韓国を中心に行われてきましたが、2012年に大陸棚限界委員会が沖ノ鳥島の大陸棚を一部認めたことで、沖ノ鳥島の「島」としての地位は国際社会のお墨付きを得た形となりました。
しかし、事ここに至っては、沖ノ鳥「岩」論は、EEZの広大さを特徴とする我が国にとって注目すべき課題です。沖ノ鳥島は、昭和6年に日本に編入されて以来、敗戦によるアメリカの信託統治を経て返還されており、領有権には疑いの余地はありません。他方で、外部からの補給なしには継続的に滞在できない無人島であり経済活動がないため、同判決の解釈次第では同島のEEZを否定する考えに説得力が増す可能性があることには留意しなければなりません。沖ノ鳥島は、主権を主張する国が他にないため中台韓等と本格的な対立になる可能性は低く現在のところ大きな問題にはなっていないものの、尖閣諸島についてはよく考えるべきです。尖閣諸島では、鰹節工場が稼働し村落ができるほどの経済活動などを行った歴史がありますが、現在では民間人の入島が禁じられ公務員も通常上陸しないため無人であり経済活動もありません。
同判決によって、民間人が旅行できる太平島のEEZが否定されるならば、何人も入ることが許されない尖閣諸島も同様にEEZを否定される可能性がでてくるかもしれません。もし何らかの方法で中国や台湾の尖閣に対する領有権の主張を断念させたとしても、次にはEEZを否定するという選択肢が出ます。資源を求めて第三者がEEZを認めない態度に出る可能性もあり得ます。来年の事を言えば鬼が笑うと思われるかもしれませんが、太平島と尖閣諸島が同列に扱われうるかは、今後を見据えて考えておく必要はあるのではないでしょうか。
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