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2016-07-25 00:00
毛沢東思想に根付く中国の膨張主義
加藤 成一
元弁護士
1949年の中華人民共和国の建国以来、中国は、たびたび軍事力による膨張政策を遂行してきた。1949年の人民解放軍による新疆侵攻、1950年のチベット侵攻、1958年の台湾・金門島に対する砲撃、1962年の中印国境紛争では印度に侵攻してのアクサイチン地方併合、1979年の中越戦争ではベトナムへの侵攻、などである。そして、現在では、南シナ海、東シナ海で、軍事力を背景として「力による現状変更」を企て、さらに、西太平洋への海洋進出を狙っている。これらの一連の軍事力行使には、「帝国主義者から人民を解放するため」とか「中国の核心的利益を守るため」などという大義名分が用いられてきた。
このような中国の膨張主義は、マルクス・レーニン主義を中国に創造的に適用したとされる毛沢東思想に立脚するものである。毛沢東思想の核心は、(1)農民、とくに貧農・下層農民主体による革命経験の絶対化、(2)「政権は銃口から生まれる」という軍事力万能主義の革命観と国家観、(3)中華思想の拡大再生産ともいえる強烈な民族主義の3点である。特に、(2)の軍事力万能主義と(3)の民族主義の合体が、中国の膨張主義の根源であろう。
毛沢東は、(2)に関して、「共産党員の一人ひとりが鉄砲から政権が生まれるという真理を理解すべきである。鉄砲からすべてのものが生まれてくる。我々を戦争万能論だと笑うものがあるが、その通り、我々は、革命戦争万能論者である。それは悪いことではなく良いことである。世界全体を改造するには、鉄砲によるほかない」と言っている(毛沢東著『戦争と戦略の問題』毛沢東選集第2巻274頁~275頁、1966年新日本出版社刊)。また、(3)に関して、毛沢東は「中華民族の数千年の歴史には民族の英雄と革命の指導者がたくさん生まれた。従って、中華民族は、光栄ある革命的伝統と優秀な歴史的遺産を受け継いだ民族でもある」と言っている(前掲書378頁)。
「偉大な中華民族の復興」を掲げる現在の習近平政権は、こうした毛沢東思想に基づく軍事力万能主義や民族主義を受け継ぎ、これを国家統治、就中、外交や軍事戦略の基本方針としている。それは、年々急拡大する軍事予算による驚異的な軍備増強政策や、反日教育・反日宣伝政策の徹底による民族主義の鼓舞などにも表れている。そのため、南シナ海のほぼ全域が中国の「歴史的権利」に属するとの「九段線」の主張に基づく人工島建設、軍事基地化や、東シナ海の尖閣諸島が中国固有の領土であり、中国の核心的利益に属するとの主張に基づく中国公船による領海侵犯の常態化、さらには、沖縄に対しても、「琉球処分」や「沖縄返還」の国際法上の根拠に疑問を呈して、「沖縄独立」を支援するなど、中国の領土的野心や膨張主義はとどまるところを知らない。
1949年の新疆侵攻や、1950年のチベット侵略で用いられた「帝国主義者から人民を解放する」との大義名分が、将来、沖縄についても用いられかねないことを懸念するものである。日本国民は、中国の膨張主義の根底には、毛沢東思想に基づく軍事力万能主義と自国中心の偏狭な民族主義が存在することを、片時も忘れず、尖閣諸島や沖縄防衛のためには、自衛隊・海上保安庁の一層の充実と、強固な日米同盟による対中抑止力の強化を、くれぐれも怠ってはならないであろう。
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