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2016-07-20 00:00
加盟国にも迫っている対英要求の二者択一
倉西 雅子
政治学者
先日29日に開かれたEU首脳による非公式会合において、国民投票においてEUからの離脱を決定したイギリスに対する基本方針が共同声明として発表されました。同声明によりますと、イギリスが欧州市場へのアクセスを維持するためには、「四つの自由」、即ち、その一つである人の自由移動を認めるよう求めたようです。
イギリスで実施された国民投票の最大の争点は移民問題であり、それが、国民に対して国家か市場かの二者択一を迫るものであったことを考えますと、EU側が示したこの厳しい条件もまた、イギリスに対して、再度、同一の究極の選択を求めることを意味します。となりますと、一度目に国民が示した選択を二度目で覆すことは殆ど不可能ですし、EU側の譲歩を一切期待できないとすれば、EU離脱とは、市場に対する歴史や伝統を含む国家の維持の優先に他ならなくなります。
このことは、逆から見ますと、市場の優先=EU加盟の維持は、国家の喪失と凡そ同義となります。何故ならば、長期的に見れば、人の自由移動は国民の枠を緩やかにであれ融かしてゆき、やがては全ての人々が「単一欧州人」と化してゆくからです。加盟国は、主権と領域のみで構成され、「居住地」や「選挙区」程の意味しかもたないかもしれません。EUは、非公式ながら「多様性の中の調和」をモットーとしておりますが、全ての色が混じると黒色となるように、そこには、モノトーンの殺伐とした光景が広がっているのです。EUを観察しますと、既に、若年層をターゲットとした域内就労支援や言語教育など、「単一欧州人化」に向かっての政策が強力に推進されており、EUには、「世界市民」のミニ版が出現しつつあります。
こうしたEUの方向性については、当然に、加盟国国民からの反発があるのですが、今般の対英要求は、残りの27カ国に対しても、抜き差しならない問題を提起しています。EU離脱を問う国民投票の実施の有無に拘わらず、EUの加盟国であること自体が、長期的には祖国喪失の黙認となることを明確に認識せざるを得ないからです。EUの対英要求は、EUの将来像について態度を曖昧にしてきた27加盟国に対しても、暗に二者択一の選択を迫る結果となったのではないかと思うのです。
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