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2016-07-12 00:00
増田Vs小池は、91年の鈴木Vs磯村に酷似
杉浦 正章
政治評論家
一見複雑に見える都知事選挙を俯瞰した場合、やはり増田寛也対小池百合子の戦いに収れんするだろう。構図は1991年の自民党分裂選挙である鈴木俊一対磯村尚徳の戦いに似ている。よく言われる1999年の明石康対柿沢弘治の自民党分裂選挙は、石原慎太郎が後出しじゃんけんで割って入り、当選しているから参考にならない。増田対小池の構図はあらゆる意味で好対照をなしている。組織力対知名度、謹厳実直型対劇場型、組織票対浮動票の戦いの様相だ。6月に自民党が行った世論調査では増田、小池が拮抗し、小池が頭だけ勝っていたが、増田が立候補表明した現在ではどうなっているか興味深い。民主党が突如出した鳥越俊太郎は、4野党で一致すれば台風の眼になり得るが、当選は困難だろう。とにかく小池は民放のニュース・キャスター出身だけあってテレビへの露出がうまい。推薦状提出でテレビ、取り下げでもテレビ、記者会見でもパネルを出して訴え、分かりやすい。ところが民放テレビは、連日取り上げるが、告示前は一種の小池ネガティブ・キャンペーンの様相が色濃い。コメンテーターらも小池のパフォーマンスを苦々しげにコメントする。コメンテーターは自らが知的であることを競争で見せ合っているから、「小池劇場」も否定して、頭のいいところを見せようとする訳だ。この風潮は小池の狙う浮動票の獲得を困難にするものだろう。
昔、都知事・美濃部亮吉を選挙で自民党がいじめると、山の手の婦人層が「お可哀想に」と同情して、美濃部支持に回ったものだが、自民党はこれに懲りて、都知事選では悪者にならない方法を身につけているのだ。その第一が、官邸も自民党首脳も都議会も参院選を妨害した小池に、はらわたが煮えくりかえっているにもかかわらず、これを表面に出すことだけは避ける傾向がある。7月11日も小池が幹事長・谷垣禎一に「自らの処分は党の判断に任せる」と事実上の進退伺いをしたが、谷垣は除名には直ちに踏み切らなかった。なぜかと言えば、除名すれば劇場型の仕掛けにはまってしまうからだ。首を切られれば小池はあのにっくき自民党から首を切られた「可憐な婆さん」を演ずることが出来る。悲劇のヒロインになろうとする作戦なのだ。除名すれば都知事選を左右してきた浮動層、悪く言えば衆愚が反応する。
小池は、当選した場合の公約で都議会解散を打ち出したが、これが大間違い。自治体の長は、首相と違って突如伝家の宝刀を抜くことは出来ない。不信任案が議会から上程された場合には解散で切り返すことが可能だが、当選してすぐに不信任案が出るわけがない。小泉純一郎の入れ知恵と言われている。真偽は定かでないが、ありそうな話だ。しかし、無知も甚だしい。これに対して増田は意識して謹厳実直さを前面に出した。これまで増田はコメンテーターとして頻繁にテレビに露出しており、露出度は小池より圧倒的に多い。しかし地味であり、派手な言動はしない。その発言は実にバランスがとれており、ハチャメチャなコメンテーターが多い中で、際だって知性的で、本筋を付いた意見を述べる。東大法学部卒にしては、珍しく平衡の感覚を持ち合わせている。したがって増田フアンは多く、組織票に加えて浮動票も増田に流れる可能性が否定出来ない。とりわけ、政治家都知事の醜態で、謹厳実直な官僚型は小池へのアンチテーゼとして作用するものとみられる。自民党は増田以外の候補を応援した自民党員を除名にするという異例の通達を出した。明らかに小池の地元議員が小池に動くのを止めることを目的としている。
かつてパリ仕込みのキザで売った磯村は、都知事選で銭湯に行って年寄の背中を流すという一大パフォーマンスを演じた。小池の場合は女湯だからカメラを入れるのは難しいが、恐らく似たようなパフォーマンスがないか、現在準備中というところだろう。都民にはパフォーマンスをパフォーマンスと感じない民度の層がいて、これが勝敗を決めるということが、小池には分かっているのだろう。しかし、磯村の場合は逆目に出た。太った素裸が醜悪だったのか、かえって女性の反発を買った。鈴木俊一が229万票で、磯村は143万票と、大差が開いたのだ。みえみえのパフォーマンスは、三流歌舞伎役者が六法を踏むようで醜悪だから、民衆もすぐに見破る。具体的な票分析は世論調査が出ない限り困難だが、参院選挙の自民投票は2人で155万票、これに公明党の74万票が加われば229万票になる。鈴木の取った票の構図と似ている。民進党の参院2人の票は155万票だが、蓮舫の圧倒的な人気に支えられており、民進候補にはここまで出ないだろう。宇都宮健児も根強い支持層があるが、過去2回の100万票近い票は困難だろう。こうして増田と小池を軸に都知事選は展開するが、12日になって民進党がジャーナリスト鳥越俊太郎を擁立する方針を突如明らかにしており、予断は許さない状況だ。
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