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2016-06-29 00:00
「人殺し予算」が民共共闘を直撃
杉浦 正章
政治評論家
昔反党行為を犯した極左政党の党員が、まるで執行部を前にして懺悔をするかのようであった。「人を殺すための予算」発言で政策委員長を更迭されたあとの藤野保史は「党の方針とは異なる」「党の方針とは全く違う趣旨」と記者会見で繰り返した。しかし防衛費を「人殺し予算」と断定した未曾有の大失言は、中国のことわざ「一言既出,驷马难追」(一言口に出せば,四頭立ての馬車でも追いつけない)そのものだ。あっという間に参院選野党共闘を直撃、「比例票では既に100万票減らした」(山口那津男)という惨状となった。首相・安倍晋三を始め自公は千載一遇のチャンス到来とばかりに、残る2週間共産党と、同党と共闘する民進党などに照準を合わせて攻撃を続ける。これまで発言を黙殺してきた朝日も、さすがに辞任劇ともなれば、報道せざるを得なくなったようだ。4面ながら報じている。日曜のNHKの討論番組を見ていて気付いたのは、藤野発言に対して即座に「それは言い過ぎだ」と反応したのは自民党政調会長・稲田朋美。公明やおおさかもこれに追随したが、民進党政調会長・山尾志桜里は無反応。意図的沈黙というより、どう反応して良いか分からないかの様であった。政治家としての熟練度の違いを見せた。
山尾にしてみれば、何よりも大切な共闘相手であり、批判すれば共闘にひびが入ると判断したのかもしれない。その共闘相手共産党が、さすがに藤野を切り捨てざるを得なかった。委員長・志位和夫ら幹部は、当初は発言を取り消せば済むと考えたのだろう。6月26日夕方になって藤野に取り消させたが、まさに発言は燎原の火のごとく広がり、手がつけられないような様相となった。それもそうだろう、共産党は戦後各種“闘争”でたびたび殺人事件を起こしているが、自衛隊は発足以来1人も他国の人命を奪っていない。おまけに東日本大震災や熊本地震では、自衛隊がなければ多くの尊い人命が失われていた。熊本の病院では自衛隊の給水継続により350人の人工透析患者を救ったという。熊本選挙区では民進党幹部から「まるで民共共闘を殺す発言だ」と悲鳴が上がるほどだ。少なくとも熊本では統一候補の当選はあり得なくなった。志位としても藤野を更迭せざるを得ない立場に追い込まれたのだ。藤野に辞任会見をさせた志位は「党の方針ではないと強調せよ」と命じたに違いない。ところが「人を殺すための予算」発言は共産党の「本音」に極めて忠実に沿ったものであることは明白だ。第一に似ているのは共産党が好きなレッテル貼りだ。安保法制を「戦争法案」と決めつけ、同法成立を「徴兵制に道」と断定する“手口”にそっくりではないか。加えて自衛隊を憲法9条違反の違憲として解消する党是も変更はない。
共産党は大矛盾を抱えている。自衛隊解消の党是について、志位自身は記者会見で「日本を取り巻く国際環境の平和的な成熟が出来て、国民みんなが自衛隊はなくて大丈夫だという圧倒的多数の合意が熟したところで、9条全面実施の手続き、すなわち自衛隊の解消に向かう」と発言している。つまりこの地球上に未来永劫(えいごう)実現しないユートピアが出来て初めて自衛隊を解消するという方向だ。戦後長期にわたって維持してきた自衛隊解消の方針を三百代言の論法を駆使して、「国民連合政府」実現のため事実上転換したのだ。それにもかかわらず党是はそのままだ。これが矛盾出なくて何であろうか。その機微を理解しない藤野は、過去に勉強したとおり党是に忠実に自衛隊を違憲の組織と判断し、国防上の役割を否定して「人を殺すための予算」発言をしてしまったのだ。こうして民進党にとっては共産党との共闘がプラスかマイナスか分からないような状況になってきた。
今後政府・与党は、「人殺し予算」発言を最後の最後まで選挙戦に使い続けるだろう。民進党内も右派が前原誠司のように「自衛隊は専守防衛で極めて重要な役割を果たしている。極めて悪質な発言だ」と真っ向から批判に出ている。前原としてはもともと共産党との共闘に批判的であり、「それ見たことか」という思いが強い。こうして民進党は選挙中に、再び遠心力までが生じ始めたのだ。苦し紛れか、代表・岡田克也は「地元の三重選挙区で敗れた場合」に辞任する意向を表明したが、これは「党が惨敗しても、三重が残れば辞めない」という布石のようにも聞こえ、哀れである。いよいよ改選45議席が15議席以上減る流れが現実味を帯び始めている。共産党との共闘という「毒を食った報い」で民進党は自らの墓穴を掘ったとしか考えられない状況である。おおさか維新の会代表の松井一郎が「共産党は少しずつ化けの皮がはがれてきている。共産党と組むということは、そういう考え方で一致するということだ」と述べ、「人殺し予算」発言を批判。共産党は民進党にとって童話の「おんぶお化け」になりつつあり、これから逃れることは選挙中は不可能だろう。
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