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2016-06-07 00:00
消費税増税から解き放たれたアベノミクス
田村 秀男
ジャーナリスト
安倍晋三首相は今後3年あまりの間、消費税増税というくびきからアベノミクスを解き放つ。そして財政政策と金融政策の両輪をフル稼働させる。景気浮揚、脱デフレは待ったなしだ。安倍政権は増税の延期に伴い、大型の第2次補正予算の検討に入った。財政を動かせば日銀異次元緩和も活力を取り戻す。従来の増税・緊縮財政路線を踏襲するなら、年間約80兆円もの日銀資金は日本の雇用や設備投資増進に役立たない無駄金になりかねない。
かの「パナマ文書」で世界を騒がせているタックスヘイブン(租税回避地)を例に挙げよう。国際決済銀行(BIS)統計によれば、平成26年4月の消費税増税後、日本は英国を抜いてオフショア金融市場(タックスヘイブン地域と同一)への世界最大の資金の出し手になった。代表的なタックスヘイブン、ケイマン諸島への日本からの証券投資は昨年末までの2年間累計で19兆円近くになる。26年度から2年間の家計消費減少規模は物価変動分を除き計9・7兆円、リーマン・ショック後の3・6倍に上った。増税による景気低迷で国内の資金需要が伸びず、異次元緩和でだぶついた資金がタックスヘイブンに向かっている。
先の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)宣言で、首脳たちが世界経済リスクに関連して口々に言及したのは中国である。過剰設備・不動産を抱えた中国の企業・地方政府債務は史上空前の規模で膨張し続けている。上海などでは不動産バブルが再発し、崩壊すればリーマン・ショック級の動揺を世界に及ぼすだろう。首脳たちはチャイナリスクの遮断に向けた日本の財政・金融政策に期待する。事実、今やらなくていつ、と思えるほどの好機が日本に到来している。まずは日銀のマイナス金利政策。最大の受益者は政府で、利子負担がゼロ以下の国債を大量発行できる。日銀が国債を市場から買い上げたまま保有し続ければ財政と金融は一体化し、民間に対する政府債務は実質上増えない。残る課題は賢明な中長期の財政出動プランである。単発的なバラマキの後は、一転して大幅削減というこれまでの財政路線は廃棄すべきだ。
マイナス金利国債で調達する資金は、大震災リスクに対応するインフラ整備、教育・人材育成、航空宇宙・バイオ・医療など成長分野の研究開発や防衛力増強など、これまで財源不足を理由に押さえ込まれてきた分野に重点投入できる。これらのプロジェクトは民間投資を誘発して内需を刺激するばかりでなく、生産性を向上させ、若い世代に挑戦の機会を与える。経済成長に伴う雇用機会の増加は少子高齢化問題解決の決め手だ。兆しはすでに出ている。人口動態統計によると、25年には若者の就業率上昇に連動して婚姻率が上向き、出生率はデフレ前、6年の水準近くまで回復した。需要を創出し、民間投資を促す政府本来の役割を果たす。首相の増税延期決断はその嚆矢なのだ。
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