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2016-06-01 00:00
消費増税再延期をめぐる安倍対山口の攻防
杉浦 正章
政治評論家
またまた公明党は「どこまでもついて行きます下駄の雪」となった。代表・山口那津男はかねてから「雪ではない鼻緒だ。切れれば下駄は使い物にならない」とすごんでいるが、なかなか切るにも切れないのが苦しいところ。最大の焦点であった消費増税再延期をめぐる首相・安倍晋三対山口の攻防は、安倍の突っ張りで山口がすっ飛んだ形となった。公明党は「どこまでもついて行く」しかないのが実情だ。公明が「補完勢力」としての立場をますます露呈させる結果となっている。何だか「下駄の雪」が可哀想になってきた。安倍は山口に一杯飲ませて“頭なでなで”した方がいい。勝ちすぎは良くない。
消費税問題が本格的な議題となった党首会談は5月24日だ。ここで安倍は結果的に山口を二階に上げて、はしごを外した。増税について「法律で決めたことをやってゆくことに変わりはない。重大な状況でない限り実行する」と再延長なしの方針ととれる発言をしたのだ。山口はこれを本気と受け取った。これが間違いの元。筆者などはとっくに安倍がサミットをテコに再延期をすると書いていたが、山口はどうも人の言うことを素直に聞く性格らしい。その山口をさておいて、安倍は28日に財務相・麻生太郎、幹事長・谷垣禎一と会談して、2年半の延期を伝えた。恐らく盟友関係にある麻生と安倍は、2人だけの会談の時に、その後の運びまで綿密に打ち合わせたに違いない。状況証拠から推理をすれば、麻生は「オレ怒ったふりするから」と述べ、安倍は「頼むよ」と言ったのだろう。麻生が怒ったふりをして、「解散だ」とぶち上げ、財務省や自民党内や公明党の気を引きつけ、最後には急転換すれば、「あの麻生すら転換した」と大勢が従うことになる作戦なのだ。自民党の政治家が困難な問題を処理する時にやる大芝居だ。筆者のように50年もだまされ続けていると、手に取るように分かる。山口はこの海千山千の手口に引き回された。
麻生が翌日から「解散せよ」とぶち上げて、舞台で大見得を切った。事態がどう展開するか固唾をのんで政界が見守る中で、安倍は麻生との会談の何と2日も後に山口と会談、「2年半延期する」と伝えたのだ。そのころにはいくらナイーブな山口でも麻生の言動は怪しいと気付いていたに違いない。大勢は延期で決まりそうであると分かっていたのだ。しかし、「突然の話で、党内とよく相談する」と即答を避けるのが精一杯であった。5月24日に二階に上げたが、そのはしごを外した瞬間が30日の会談であった。
こうした動きに出たのは、基本的に安倍が山口を常日頃からそれほど信頼していないことが挙げられる。信頼していれば、はしご外しはしないで、説得する。山口は今年に入ってからも軽減税率を自民党にのませるのに四苦八苦の戦いを強いられており、その結果達成した同税率を加えた消費増税の方針を、安倍がよもやひっくり返すとは思わなかったのだ。したがって再延期の話が出る度に、「予定通り実施」発言を繰り返した。これも安倍の琴線に触れ続けたのだろう。もともと安倍は山口とは反りが合わなかった。安倍はスピッツ風に吠える政治家とは合わないのだ。さらに安倍には、先祖伝来の大局観が備わっている。周りを見渡せば山口は完全孤立の状態だ。民進党代表・岡田克也が延期路線に転じて、4野党は延期でそろった。そして安倍の耳に入る創価学会の動向は、「結構増税反対が多い」というものであった。それはそうだろう。圧倒的に庶民が多い学会員には、「なんで山口さんが1人で延期に反対しているのか分からない」という向きが多いのだ。安倍がこの山口の完全孤立を突かないわけがない。突くと言うより、延期に賛成せざるを得ないと判断したのだろう。
こうして安倍と山口の一戦は安倍の完勝に終わった。公明党は自民党の補完勢力としての役割をまたまた果たしてしまうことになったのだ。公明党は伝統的には中道左派に属すると思うが、結果的には安保政策でも安倍に同調している。最近では、秘密保護法で山口は、最初は猛反対の日本弁護士連合会に近づくかに見えたが、急旋回して安倍に付いた。集団的自衛権の容認についても、山口は最初は消極的発言を繰り返しながら、限定的行使の歯止めがあることを理由に推進に回った。この傾向は歴史的にも顕著に見られた。1992年のPKO協力法案、周辺事態法、イラク特措法などの成立に最後は協力してきた。自公連立は1999年から始まり、民主党政権の3年を除いて現在まで継続してきている。とりわけ自民党が参院で過半数を失ってからは、公明党の存在は不可欠となっている。もう自民党の一派閥のような傾向すらある。次回の参院選に勝とうが負けようが、自公連立は維持され続けるのだろう。
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