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2007-01-05 00:00
共同体丸の操舵室が落ち着かない
長岡 昇
朝日新聞論説委員
どのような構想であれ、それを実現するためには、リーダーが進むべき方向を明確に指し示し、確固たる信念を持って歩み続けることが大切である。構想が遠大であればあるほど、リーダーが果たすべき役割は重要になってくる。そういう観点から、東アジア共同体構想をめぐる2006年の動きを振り返ってみると、いささか薄ら寒い状況だった。
政治的にも経済的にも、東南アジア諸国連合(ASEAN)の優等生と言われていたタイで9月に軍部によるクーデターがあり、タクシン首相が国を追われた。新しい首相にどういう人物を据えるのかと注視していたら、元陸軍司令官のスラユット氏が軍服を着用して登場した。首都バンコクなどに敷かれていた戒厳令は解除されることになったものの、スラユット新政権の足取りはどこかおぼつかない。
「前途多難だなぁ」と嘆いていたら、今度はフィリピンである。2006年12月にセブ島で開く予定だったASEAN首脳会議と日中韓との首脳会議、それにインドとオーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国による東アジア・サミットを直前になってキャンセルした。アロヨ政権は「台風が接近して悪天候になる恐れがあったため」と説明したが、額面通りに受けとる者はだれもいない。「イスラム過激派が首脳会議を狙ってテロを仕掛ける恐れがあった」との憶測も飛んだが、これもあやしい。「アロヨ政権がマニラを離れるすきを狙って政権奪取を試みる動きがあったのではないか」という解釈が一番説得力を持つあたりが、フィリピンの切ないところだ。
ASEANが抱える頭痛の種、ミャンマー(ビルマ)の政治状況が改善される兆しもない。2005年11月に「謎の遷都」をした軍事政権は、石油・天然ガス資源を目当てとする中国とインドによる大規模投資でうるおい、同国中部にある新しい首都ピンマナの建設にいそしんでいる。民主化を求める外部からの声など「どこ吹く風」といった風情だ。 あれやこれや、2006年は東アジア共同体構想のリーダー役を果たすべきASEANが迷走した年だった。船の操舵室がわさわさと落ち着かず、針路を定めるどころではないような状況である。
日本に安倍政権が誕生し、日中韓の関係は大きく改善された。けれども、東アジア共同体構想を進めるうえで、日本、もしくは中国が牽引役を果たそうとしてもうまく行くまい。やはり、ASEANを前面に押し立て、日中韓が「縁の下の力持ち」の役割を果たすのが一番おさまりがいい。延期されたASEANの首脳会議と東アジア・サミットは、2007年1月中旬に仕切り直しとなった。フィリピン政府がこの会議をしっかり仕切ることができなければ、共同体づくりの機運はしぼんでしまう。せっかく動き出した構想である。苦しくても、何とか船を前に進めるように、それぞれの国が知恵を絞らなければならない。日本政府には、こういう時こそ懐の深さを示すような行動を求めたい。2回目の東アジア・サミットを何とか実現し、構想を一歩でも前に進めるために全力を尽くすべきだ。
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