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2016-04-27 00:00
北外相による“対話の模索”は失敗
杉浦 正章
政治評論家
近ごろ訝(いぶか)しいのは北朝鮮外相・李洙墉(リスヨン)の訪米だ。どうでもよい国連の署名式出席を“口実”に米国に滞在していたが、帰国の途についた。李は米朝対話模索の動きを垣間見せたのか、単なる対話へのアリバイ作りだったか不明だが、訪米が対話へと前進することはなかった。北は帰国を待ちかねたかのように核実験や中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射へと威嚇のレベルを上げようとしている。来月上旬の労働党大会にむけて金正恩の身分不相応の“大見得”が佳境に入ろうとしている。筆者のように古いジャーナリストは、米国による「置いてけぼり」外交に警戒心を抱く癖がついている。なぜなら米中頭越し外交によって1972年の首脳会談を出し抜かれた苦い経験があるからだ。ニクソンの特別補佐官キッシンジャーは隠密外交で日本無視の米中国交回復を実現した。韓国メディアも同様であり、今回の李の訪米を“警戒する”論調が見られた。米国は大戦略があればそれを優先させるために、何をするか分からない国だ。
確かに、このところ北と米国双方に微妙な発言が相次いでいた。北の国防委員会報道官は4月4日に「軍事的圧力より交渉の準備が根本的な解決策」と米国との対話の可能性をほのめかした。一方米国務長官・ケリーも11日広島で「北朝鮮が核を議論すれば相互不可侵条約を含む平和協定の議論が可能だ」と述べていた。李もAP通信のインタビューに応じて「アメリカが韓国と合同で行っている軍事演習をやめれば、核実験を中止する用意がある」と言明した。李の訪米中唯一の重要発言であり、李はこれを言うために訪米したと言っても過言ではあるまい。しかしこれに対してオバマは、ドイツで「真剣に受け止めていない」と、にべもなく拒絶した。逆に警戒感をあらわにする発言をした。北の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験について「発射実験は失敗しているとはいえ、北朝鮮は確実に知識を蓄えている。我々は北の挑発を懸念している」と述べたのだ。そもそも北の核保有など米国が認めるわけがない。認めれば日韓の離反を招きかねない。それどころか日韓の核武装を招きかねない。朝鮮半島の核廃絶は米国の基本戦略なのだ。
こうして李の訪米の目的はもろくも崩れたが、もしオバマが応じていたらどうなっていたかである。北は核実験が取引材料になると誤解して、36年ぶりの労働党大会で金正恩は「米国は我が国の核ミサイルに屈服した」と胸を張るだろう。オバマがその手に乗るわけはないのだ。そもそも北朝鮮は中国の核保有の歴史に学んでいる公算が大きい。中国は1964年に原爆実験、67年に水爆実験、70年に人工衛星を打ち上げ、大陸間弾道弾も製造可能となった。これに慌てた米国は上記のキッシンジャーによる隠密外交を展開、中国は米国公認で核大国への道を歩み始めたのだ。筆者は1963年当時外交部長だった陳毅が「中国はたとえズボンをはかなくとも、完成された核兵器を製造するであろう」と発言したことを覚えている。さしずめ北朝鮮には「ズロース」と言いたいが「下品」と言われるから、「着た切り雀になっても」核・ミサイルを手放さないだろうということだ。米国と対等で交渉することを本気で夢見ている異常な国なのである。
SLBMもその一環だ。通常「貧者の核」は毒ガスなどを指すが、かつてパキスタンの原爆実験が「乞食の実験」と評されたように、似たり寄ったりである。しかし貧者であれ、乞食であれ、こけの一念は恐ろしい。SLBMは30キロしか飛ばなかったから「失敗」とされているが、日本の北朝鮮評論家たちのネタ源であるジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮サイト「38ノース」は「もともと30キロ分しか固形燃料を登載していなかった」と報じている。10トンや20トンもの燃料を登載したら頭上に落下するというのだ。べこべこのブリキ細工のような新浦級潜水艦から発射されたとみられているが、発射装置はロシアから輸入されたと言われている。ミサイルは、旧ソ連のゴルフ級潜水艦に搭載したSN-6-Nミサイルと類似しているといわれる。「38ノース」は、北朝鮮が固形燃料を使った潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を2020年までに実戦配備する可能性がある、との見方を明らかにしている。国民の生活など「知ったこっじゃない」とばかりに、金正恩は狂ったように核実験、ミサイル実験を繰り返している。李が帰国すれば労働党大会に向けて5回目の核実験をするだろう。極東情勢は、過去最大の北朝鮮制裁にも痛痒を感じないがごとく、北の暴発に次ぐ暴発が継続する。労働党大会で気勢を上げる金正恩は、「支持しなければ死刑になるから、大会の圧倒的な支持を受けて」、気をよくして、ますます増長する。
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