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2016-04-19 00:00
もうひとつの世界経済を晒したパナマペーパーズ
川上 高司
拓殖大学教授
ドイツのメディアのひとつであるSuddeutsche Zeitungと、ICIJ(The International Consortium of Investigative Journalists(国際ジャーナリスト調査協会))に、パナマに本拠地を置く法律事務所の膨大な内部文書とともに電子メールが送られてきた。その内部文書には、電子メール1150万件、顧客情報、銀行口座などが含まれていた。その法律事務所はMossack Fonseca 法律事務所(以下MF法律事務所と記載する)であり、1977年に開設されたパナマでは有名な事務所である。この事務所はいわゆるペーパーカンパニーの設立や管理を主な業務としており42カ国に支局があり600人の従業員を抱える、この業界では世界で4番目の規模を誇る。顧客は30万社にのぼる。
その法律事務所の内部資料がリークされた。世界12カ国の現職首脳や著名人らがいかにペーパーカンパニーを経由して資産を隠し税金逃れをしているかがこのリークによって露わになったのである。アメリカのエコノミストであるガブリエル・ザックマン氏によると、世界の富の8%にあたる7.6兆ドルが税金を逃れており、その損失は年間2000億ドルになるという。EUだけで780億ドル、アメリカが350億ドルの税金を徴収し損ねているというのだ。各国の当局が躍起になって隠し資産を追いかけるのもうなずける。発端は2015年、ドイツから始まった。ドイツ当局は、MF法律事務所の内部告発者から情報を買い取り、同年2月にはコメルツ銀行を調査し始めた。すでにこの時点でMF法律事務所に狙いを定めるようになっていた。
またブラジルでも元大統領の汚職事件に絡みMF法律事務所は当局の調査対象となり、ブラジル当局からマネーロンダリングをしていると見られるようになっていた。資産隠しにはMF事務所だけでなく、銀行の協力も必要である。HSBCやバークレー銀行などが協力していることもパナマペーパーズで判明している。まさにもうひとつの世界経済とも呼べる。アイスランド首相やイギリスのキャメロン首相、パキスタンのザリフ首相、中国の習近平国家主席、プーチン大統領、サウジアラビア王家などの現職政治家らの親族の氏名がこのパナマペーパーズで明らかになりアイスランド首相は辞任を表明、キャメロン首相は釈明に追われるなど政治問題にも発展している。MF法律事務所の顧客らは眠れぬ夜を過ごすことになりそうだ。
今回のリークは史上最大のリークと言われている。2010年にアメリカの外交文書がリークされたいわゆるウイキリークスや、アメリカの盗聴を暴露した2012年のスノーデンリークより遙かに巨大な闇を暴露したのである。ウイキリークスの暴露した情報は1.7GB(ギガバイト)だった。今回のリークは2.6TB(テラバイト)であり、想像を超えた情報量である。すべてを解明するには相当な時間がかかる。もうひとつの世界経済の全容とはいかないまでも、一部が明らかになることを非富裕層は期待しているに違いない。
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