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2006-12-29 00:00
東アジア共同体関係各国の態度の弱さ、曖昧さ
石垣 泰司
東海大学法科大学院教授
東アジア・サミットの開催なきまま1年が過ぎ去ろうとしている。12月初旬フィリピンのセブで開催が予定されていた第2回東アジア・サミット(EAS)が間際に台風襲来との理由で明年1月へ急遽延期になったことについては、単なる気象上の理由だけではなく、テロ情報や内政上の事情もあったとの憶測がなされているが、私にはASEAN+3や東アジア・サミットへのフィリピンの取り組みの弱さにもかなりの程度起因しているように思えてならない。
ASEAN+3協力に対する取り組みへのASEAN各国の熱意については、従来から国により大きな差があることが指摘されてきた。マレーシアが主導的役割を果たす一方、インドネシアはASEANの中心的国家として、ASEAN+3協力によってASEAN協力自体の陰が薄くならないように絶えず警戒してきた。他方、シンガポールは両者の間にあって上手に外交上の対応をしてきたとされる。東アジア・サミットは、ASEAN+3協力の延長線上にあり、これに対するASEAN各国の基本的態度はASEAN+3への立場がそのまま反映された形となっており、フィリピンのそれは、何れの協力に対しても総論賛成ないし一般的、外交的支持の域を出ていない観がある。
先にASEAN+3政府間会合で東アジア・サミットの開催の頻度の問題が協議された際、ASEAN主要国や中国を含む比較的多数の国がASEAN+3協力の枠組みを最重要視するとの見地から東アジア・サミットについては「3年に1回程度開催すればよい」との意見であったのに対し、フィリピンが「それではフィリピンがASEAN+3サミット開催のホスト国となる2006年には東アジア・サミットを開催できなくなる」として猛反対した結果、東アジア・サミットの毎年開催が合意されたといわれる。このように、フィリピンのASEAN+3協力および東アジア・サミットに対する基本的態度は、それぞれの協力の意義を確信した上での真剣な協力とは言い難く、極論すれば外交上の付き合い、ないし面子重視の次元にあることが伺われ、さればこそフィリピン政府として、ASEAN首脳会議、ASEAN+3サミット、東アジア・サミットというASEAN各国首脳のみならず日本、中国、インド、豪州等の主要国政府首脳が参集する対アジア太平洋外交の一大イベントである一連の重要会議を、当該時点の気象、自国内政等の都合で、一方的にいとも簡単に延期通告したものであろう。
しかし、ASEAN+3、東アジア・サミット、さらには東アジア共同体の構築に対する域内各国のコミットメントの曖昧さ、弱さは、ひとりフィリピンのみの問題ではなく、ASEAN+3および東アジア・サミットに参加している10+3+3の16構成国すべてについていえることであろう。現時点で東アジア共同体構築に何の留保もなしに明確にコミットしている国は、1ヶ国も存在していない。マレーシアにせよ、中国にせよ、一見比較的積極的な推進派と見える国も、一皮むけば自国の国益に深く根ざした外交戦略上の行動の域を出ていないのが実態ではなかろうか。我が国についても、東アジア地域において盛り上がってきた大きな潮流から取り残されてはなるまじ、そのためにはむしろ積極的に打って出てイニシャティブを取るのが得策といった考慮が大きく働いているように思われる。
東アジア共同体構築の実現のためには何にもまして関係各国政府の一致した真剣な取り組みが必要であるが、上記のような関係各国の同床異夢的なバラバラな対応が変わらないのであれば、それは「なお道遠し」と言わざるを得まい。東アジア共同体構築の実現のための真剣なスタートが切られるまでには、まだかなりの歳月を要するのであろうか。
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