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2016-03-09 00:00
スティグリッツの「再延期論」が増税派直撃か
杉浦 正章
政治評論家
消費増税反対派経済学者の招致はまさか推進派の根城、財務省が進める訳がないし、だれの指名かと思っていたが、やはり首相・安倍晋三本人の指名であったらしい。事実上増税延期かどうかに決定的な影響をもたらす3月16日からの国際経済分析会合にノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツを招くのは、極めて政治的な意味合いが深い。スティグリッツは従来からアベノミクスの支持者であり、消費増税に真っ向から反対している。超大物経済学者を同会合冒頭に呼ぶのは、その後の論議への波及効果が大きい。まるで財務省の代弁者であるかのような東大経済学派を黙らせることが出来る。自民党内にも発言への期待が生じている。「消費増税再延期・衆参同日選挙」への弾みとなる公算も出てきた。興味深いのは14年11月の10%消費増税延期の際と同じコースをたどっていることだ。同年11月6日に安倍はやはり延期論を唱える米プリンストン大教授・ポール・クルーグマンと会談している。この席でクルーグマンは「アベノミクスを支持する。しかし今度の消費税引き上げは慎重にいくべきだ。そうしなければ景気が腰折れしてしまう。となればデフレから脱却できず、経済再生、財政再建もおぼつかない」と、安倍に延期を勧めている。
安倍は熱心に耳を傾けており、事実上この発言が決定的な役割を果たしたといわれている。45人の有識者から意見を聞く点検会合も開かれていたが、同会合は過半数が賛成論だったにもかかわらず、安倍はこれを無視してクルーグマンの主張を受け入れたのだ。今回の会合でスティグリッツがどう発言するかが極めて注目されるところだ。その内容は朝日の2013年のインタビューからうかがえる。まずアベノミクスについては「3本の矢、すなわち大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を組みあわせた包括的な政策は、日本経済を立ち直らせる正しい取り組みだと思う。欧米が学ぶべきものだ」と賞賛している。さらに巨額の財政赤字と財政の引き締めとの関連については、「経済を成長させてこそ、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を下げることができる。財政再建を優先し、経済成長を犠牲にするやり方では、財政赤字を減らせない。歳出削減と増税を急ぐ緊縮財政は、つねに失敗してきた。弱含みの経済を悪化させ、税収を減らす」と強調している。
まさに今年に入ってからの経済状況をも言い表しており、官邸や自民党に多い増税再延期論と軌を一にしている。そして消費増税については「第一になすべきことは成長を回復することであり、増税はそれから考えることだ」と述べている。かつてクルーグマンは「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考える」と述べているが、スティグリッツはこれとほぼ同様の考えのようである。自民党幹部の1人は「スティグリッツがこの時期に登場してくれることは有り難い。スティグリッツ様さまだ」と漏らしている。第2回会合は3月17日に、米ハーバード大教授デール・ジョルゲンソン、元日銀副総裁の岩田一政から意見を聞く。ジョルゲンソンの発言は資料が乏しいが、かつては「消費税の役割を大きくしていくことも必要になるだろう」と増税に前向きな姿勢を表明している。しかし株安と消費が冷え込む現段階でも「必要」と言うかどうかは、疑問がある。
岩田は増税1%論者だ。1%ずつ2回に分けて行えば良いとしている。恐らく今回も賛否両論が出されるだろうが、先に指摘したように、5月26日からの伊勢志摩サミットは、世界経済の現状を色濃く反映したものとなるだろう。サミットで重要なのは、10年間国際経済をリードした中国、ブラジルなどの新興国に代わって再びG7がいかに世界経済リードの手綱を握るかにある。議長である安倍の責任は重大であり、日本は8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければなるまい。G7が協調して実体経済の底上げとマーケットの安定化を図る方向を打ち出す必要がある。議長国としては、まるで「アベノミクスの断念」「デフレ回帰」となるような消費増税は再延期するしか方策がないのではないかと思われる。安倍は「世界経済の大幅な収縮が起こっているかどうかだが、専門的な見地から行われる分析も踏まえて、その時の政治判断で決める事柄だ」と、これまでの「リーマンショック並み」という再延期の条件に「専門的な見地」という“新条件”を加えている。その専門家の発言の最たるものが「スティグリッツ発言」となる可能性は大きいのだろう。
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