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2016-03-04 00:00
中国に制裁の実効性を求めても無駄
杉浦 正章
政治評論家
厳しい国際情勢に対して国連に何が出来るかという疑問は、1970年代前半にニューヨークで時事通信の国連担当をやって以来持ち続けているが、今も変わらない。北朝鮮に対する今回の国連決議も、はっきり言って米中妥協の産物であり、抜け道が多すぎて実効性を疑う。オバマはレームダックという足元を見られて、「石油禁輸」など重要ポイントで主張を貫けなかった。北朝鮮が過去においてこの種の決議に屈したことはなく、例え米国連大使が主張するように今回の決議が過去と比較して最も厳しいものであっても、屈することはないだろう。逆に核実験やミサイル実験などを継続して、“気勢”を上げるだろう。3月7日からの米韓軍事演習に際して、中距離ミサイルなどを打ち上げる可能性が高い。したがって金正恩の核とミサイル実験の暴走を止めることは出来ない。決議内容を見ただけで米中折衝で何が焦点であったかなどは手に取るように見える。決議の新たな部分は、(1)北朝鮮への航空燃料輸出禁止、(2)北朝鮮からのチタン、レアアースなど輸入禁止、(3)石炭、鉄鋼石の輸入制限などである。また従来の分野の制裁も強化され、港や空港などでの北朝鮮貨物の検査を、これまでは「疑いのあるものだけ」だったのが、今後は「全てに義務づける」ことになった。学者は「決定という言葉をかってなく多用しており、これに加盟国が従わなければ国連憲章違反になる」などと馬鹿な指摘をしているが、「決定」であろうとなかろうと現実の国際外交は別次元で動く。国連憲章違反など中国もロシアも意に介するわけがない。事実上、実効性のすべてのカギを握るのが中国である。その中国は過去の制裁と同様に「抜け穴」作りに懸命であった。
中国は日本や韓国は相手にせず、事実上米国とのみ交渉した。そしてまず米国が主張した石油取引の禁止を一蹴した。ついで米中折衝は北の輸出の50%を占める鉱物資源の輸出をめぐって、激しいやりとりがあったようだ。米国は「全面輸出禁止」を主張したが、中国は「北の暴発を招く」としてこれに応じなかった。この結果鉱物資源については、端的に言えば中国の“裁量”に委ねられることになった。民生目的なら許可し、核・ミサイルの製造に利益をもたらす輸出なら禁止することになった。国連独特のワーディングによる妥協である。誰でも感ずることだが、一体どのようにして中国は鉱物の「輸出」が民生目的であるか、核・ミサイル製造目的であるかを識別するのだろうか。これは極めて恣意的に判断出来ることであり、金正恩が中国の言うことを聞かなければ「核・ミサイル製造」となり、言うことを聞けば「民生」とすることも可能だ。米国連大使は「この20年間で最も強力」と自分の手柄のような発言をしているが、その実体は、この点一つをとっても中国に手玉に取られた形だ。北朝鮮貨物の「全面検査」にしてみても、これは“手心”を加えることの出来ることの最たるものである。北朝鮮の貿易は90%が対中貿易であり、一方貨物検査は中国の主権に属する問題である。たしかに国境の鴨緑江は丹東から北に到る丹東大橋が物流の中心となっており、たもとには双方の税関があるが、中国の税関は中央政府の言いなりで動くのは常識である。最初のうちは衛星監視への“ジェスチャー”で、貨物トラックを渋滞させても、月日がたつうちにゆるゆるになるのは火を見るよりも明らかだ。おまけに既に完成して北側の税関整備を待つ新丹東大橋は、片道2車線なので中朝貿易も渋滞なくどんどん活発化する方向だ。
航空貨物の検査といっても、北唯一の国営航空会社・高麗航空の就航先は中国とロシアだけであり、その2国が制裁に消極的であったことからすれば、チェックをしても最初のうちだけという構図がすぐに見えてくる。貨物船も中朝間の往来がほとんどである。したがって、例え日米韓が完全検査を行っても、北が痛痒を感ずるような効果は出ないだろう。加えて北と中国は1300キロにわたる国境線があり、闇ルートでの物流がかなりあることは周知の事実だ。要するにダダ漏れとまではいわないが、今回も過去と同様に抜け穴だらけの安保理決議なのである。また決議は中国にとって「使える」手段でもある。貨物検査にしても、鉱物の輸入にしても中国の“裁量”である以上、北の刈り上げ頭の独裁者をコントロールすることに使えるのである。言うことを聞かなければ、検査を厳しくすれば良い。したがって、当面は厳しくするかも知れない。しかし従順になれば、手を緩めることができるのだ。他の国連加盟国の検査も、アフリカなどは北との貿易の利益を考えて見て見ぬ振りをする可能性もある。
北は自らの存在が中国の極東戦略にとって必要不可欠であることをよく理解しており、中国が金王朝崩壊にまで導くことはないと確信している。北は中国にとって対米防波堤なのであって、北の政権が滅びれば、極東の勢力関係は一挙に中国が不利となる。習近平は金正恩を小憎らしい小僧と思っても、とことん追い込んで崩潰に導けば、確実に自らの地位に跳ね返ってくることをよく理解している。こうして独裁者・金正恩の存在は、日本だけでなく、極東の安全、ひいては米国の安全にとって危険性を増す一方となるのである。野党の「安保法案破棄」はこうした国際感覚が全くないことを物語っている。今回の決議は確かにかってなく強いものであるが、日米韓にとっては、仮にも中国とロシアが安保理で一致した決議を軽んずれば、外交上の攻撃材料として、国際的批判へと主導する道筋を獲得したことにはなる。外交的なアドバンテージは日米韓が握ったことになる。いずれにしても北の核・ミサイルの開発は安保理決議では解決出来ない。これを政治的、外交的解決への出発点と出来るかどうかは、日米韓の結束維持にかかっていることでもあろう。しかし6か国会議すら開催できないようでは、前途は厳しい。
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