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2016-03-02 00:00
本選挙ならクリントンが有利の傾向
杉浦 正章
政治評論家
米大統領選の行方を占う天王山とも言うべきスーパーチューズデーで大きな流れが見えてきた。共和党の指名争いは、異端の実業家ドナルド・トランプが圧勝の流れとなった。一方民主党は前国務長官・クリントンが南部7州で全勝の勢い。この勢いで行くと両者が指名を獲得して11月8日の本選挙の決戦に臨む公算が強まっている。しかし、本選挙でどうなるかの世論調査では、ヒラリー・クリントン有利の流れが生じており、米国民の理性が働く可能性が強い。今回の大統領選挙を俯瞰すれば、既成の政治エリートに対して独自の思想を持つアウトサイダーとの戦いの潮流が強く出た。共和党はトランプがそれであり、民主党はクリントンに対抗する社会主義者バーニー・サンダースが部外者的な戦いで一定の成果をおさめている。わずか1%の資産家が残りの米国民と同等の資産を有するという貧富の差への不満、米国社会の持つ構造的な歪みへの失望感、毎週のように発生する銃器による大量殺人などがアウトサイダー候補の原動力となっているかのようである。とりわけトランプ支持の流れは、日本で言えば“一揆”や“打ち壊し”の側面を持っている。既成の政治秩序に対する米国民の不満が噴出しているのであろう。
加えて共和党の既成の政治家にカリスマ的な人気を有する候補がいなく、共和党員は二重三重の失望感を味わって、まるで破れかぶれのような投票行動に出ているのかもしれない。それにしてもトランプ旋風はとどまるところを知らない。日本としてみれば「同盟国にも投票権をくれ」と悲鳴を上げたくなるのが、その主張である。まず絶望的なのは安全保障に関する感覚が全くないことである。シリア問題にしても、「爆撃せよ」といったり、「ロシアに任せよ」と言ったり、支離滅裂だ。マルコ・ルビオは尖閣諸島の主権まで日本のものだと主張しているが、トランプは島の名すら知るまい。おまけに日米同盟は、微妙な安保観の違いを認め合う関係で成り立っているが、トランプが大統領になれば土足で座敷にずかずかと上がるような態度で登場し、「自衛隊を上海に上陸させよ」「北にミサイルを撃ち込め」などと言いかねない。
最大の危惧は世界最強の軍隊の指揮権をトランプが握るだけでなく、核のボタンを彼が押すことが可能となることだ。要するに、何をするか分からない男が大統領になることへの不安は、日本だけでなく、同じ同盟国のNATO諸国も同様であろう。北京もモスクワも恐らく今回ほどかたずをのんで選挙の行方を見守るケースはないだろう。生涯に3回結婚し、4回倒産しており、ルビオが「希代の詐欺師」と呼ぶような男が、こともあろうに米国の大統領になるのはまさに悪夢である。しかし最大のポイントであるテキサス州では、テッド・クルーズの地元であるにもかかわらず肉薄しており、ここでトランプが勝てばもちろん、たとえ互角の勝負でも、共和党の候補選びはゲームオーバーになるのだろう。
一方クリントンは、夫のビル・クリントンが「最初の黒人大統領」と言われたくらいに、黒人層への浸透が深く、南部での戦いを有利に進めている。南部7州で全勝する可能性が出てきている。遊びで出馬したとは言わないが、軽い気持ちで出馬したサンダースは学生層や貧困層の支持が高く、資金も豊富で善戦している。全く予想外の健闘であるが、地元のバーモント州では圧勝、ミネソタ、マサチューセッツ両州で接戦が予想されるものの、ここに来てクリントンの巻き返しが激しく、全体ではクリントンの勢いを止められないだろう。問題は、クリントン対トランプの一騎打ちの本選挙になった場合、どっちが大統領になるかだが、恐らく米国人は「トランプ催眠術」からはっと我に立ち返るのではないか。早くもその流れが世論調査に現れてきている。CNNテレビは3月1日、本選ではトランプが不利となるとの世論調査結果を発表した。クリントンに投票するとの回答は52%、トランプに投票するとの回答は44%だった。一方、共和党の指名候補がルビオ上院議員やクルーズ上院議員になった場合は、クリントンが僅差で敗北するとの結果だ。共和党員が冷静ならトランプは選ばないだろうが、もうどうにも止まらない様相が強まっている。クリントンにしてみれば、トランプが出てくれば一番戦いやすい相手であろう。
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