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2016-02-20 00:00
中国の市場統制に手を貸すな
田村 秀男
ジャーナリスト
日銀によるマイナス金利導入は黒田東彦総裁久々の大英断だと評価するが、腑に落ちないのは黒田総裁が同じタイミングで中国の資本規制強化を求めていることだ。日本が異次元緩和政策を再活性化して大陸からくるリスクを遮断するのは当然としても、共産党指令経済に市場統制をもっとやれと言うのは、危機を先送り、あるいは長引かせる以外何ものでもない。中国が為替や資本移動を含む金融自由化をしないのに、日銀は中国人民銀行との間で通貨スワップ再開に応じるべきではない。黒田総裁は先の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、中国の資本逃避が止まらないことを憂慮し、北京当局による資本規制強化を提起した。この発言は国際金融界をリードし、国際通貨基金(IMF)も容認に傾いている。英フィナンシャルタイムズ(FT)紙は1月26日付の社説で、黒田提案を引用しながら、「中国には資本規制が唯一の選択肢」だと論じた。
IMFもFTも、中国金融市場の自由化を条件に、人民元のIMF特別引き出し権(SDR)構成通貨への組み込みを支持した。資本規制強化はそれに逆行する。北京のほうからはそうしたくても、大っぴらにはできないし、IMFもFTも率先して言い出すのも具合が悪かった。そこで渡りに船とばかり、思いがけず飛び出した黒田節に飛びついたようだ。考えても見よ。資本規制強化で中国の市場危機が収まるとでも言うのだろうか。危機は中国の過剰投資、過剰設備と日本のバブル期をはるかに上回る企業債務とその膨張から来ている。資本逃避は人民元資産に見切りを付けた中国国内の企業や投資家、預金者が海外に持ち出すことから起きている。資本規制の強化はこの流れを当局の強権によって封じ込めるわけだが、同時に人民元を少ない変動幅でドルにペッグさせる管理変動相場制の堅持を意味する。
管理変動相場制こそが、チャイナバブルの生成装置である。為替変動リスクがほとんどない上に、中国人民銀行はワシントンの圧力を受けて人民元の対ドル相場を高めに維持するので、国外からの投機資金が押し寄せた。人民銀行はこれら外貨の大半を買い上げるので外貨準備が積み上がった半面で、元資金を刷って国内に流すので、不動産バブルが起き、工場は盲目的に設備拡張した。資本の統制はこのバブルマシンを温存するわけで、過剰生産能力は調整されず、安値輸出に拍車がかかるだろう。株式市場の不安は延々と続く。自由化の義務から逃れた人民元はそのままSDR通貨となって、習近平政権が対外膨張の武器として使用するだろう。資本統制強化こそは、日本にとって中国脅威の増大を許す最悪の選択である。
元のSDR入りに約束した条件通り、中国が資本規制を撤廃すれば人民元が暴落するとは、何も日銀が案じる必要はない。北京側は、「世界一の外貨準備があり、元は暴落するはずがない」と言い続け、ダボス会議でジョージ・ソロス氏が「中国のハードランディングは不可避」と発言したのに対し、党機関紙人民日報や、国営新華社通信が、「人民元売りは失敗する」と応酬している。外準は減ったとはいえ3.3兆ドルで、世界一だ。日銀が通貨スワップで中国の統制強化の手助けをするのは、金融や経済を超えた政治の領域である。日銀は日本の経済再生、脱デフレのための金融政策に撤すればよい。
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