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2016-02-17 00:00
領土交渉はプーチンの「地獄」が好機
杉浦 正章
政治評論家
1991年のソ連邦崩壊、1998年のロシア危機の例を見れば明白なように、プーチンのアキレス腱は原油安である。今回はこれに米・欧・日本による経済制裁とルーブル安が加わり、プーチンは三重苦のまっただ中にある。もはや「天才プーチン」はメッキが剥がれ、いくら背伸びをしてもGDP10位の国相応のリーダーに落ちぶれつつある。古来「隣りの不幸は鴨の味」というが、日本の場合北方領土があるから、この「隣りの不幸」のチャンスをを活用しない手はない。しかし大局を俯瞰した場合、まだ「取引」には早いような気がする。またとないチャンスが到来しうるが、安倍は“親交”を重ねながらも、プーチンが「地獄」を見て譲歩に転ずる時を待つのが得策だろうと思われる。ロシアは去年6年ぶりにマイナス成長となった。今年も厳しい財政運営を迫られており、先に指摘したようにバレル50ドルを想定した国家予算は、油価が30ドル前後へと暴落して成り立たなくなっている。プーチンが製造業の要と位置づけてきた自動車製造も、去年GMが工場閉鎖。販売台数は35%の減だ。原油のおかげで高い成長率を維持してきたプーチンは、厳しい政権運営を迫られ青息吐息だ。物価高で国民の不満が高まる中、国の基金を取り崩して財政赤字を補てんし続けているが、外貨準備高は2005年に2.6兆ルーブル減少し、前年の半分以下となった。やがて底を突く可能性も否定出来ない。
このプーチンの苦境の背景には、米国とサウジアラビアの思惑が間違いなく存在する。原油安に導いて、ロシアをけん制して、弱体化を図ろうとしているのだ。過去においても原油安がソ連とロシアに大きく作用してきたことは史実から見ても明白だ。1991年のソ連邦崩壊は1990年に米国が原油価格の引き下げを主導したことが、ソ連の財政破たんの大きな原因となっている。1998年のロシア経済危機は、ロシアの輸出の8割を占める天然資源、なかでも原油価格が下落したことにより、国際収支が悪化し、それまでの財政の悪化にさらに拍車をかけた結果だ。ロシアはデフォルトに陥った。オバマが二度あることは三度あると、にっくきプーチンをおとしめる戦略に出たことは十分考えられることである。そしてこのロシアの苦境は領土問題へと発展する傾向を過去に示している。1世紀半前にやはりクリミア戦争で疲弊したロシアが米国にアラスカを売却した例があるし、北方領土問題でも例外ではない。ソ連崩壊後1992年にロシア外相・コズイレフが来日して提案したのが「歯舞、色丹の2島+α」である。当時ロシアはソ連崩壊後の後遺症に苦しんでおり、財政的にも日本の極東開発など経済支援は垂涎(すいぜん)の的であった。コズイレフ提案は(1)1956年の日ソ共同宣言に基づき歯舞、色丹を日本に引き渡す、(2)国後、択捉に関しては何らかの形で交渉を継続する、というものであった。この時は4島全面返還論の外務省が反対して、日本は断った。
一方で1998年には日本側から「川奈提案」がなされている。時の首相橋本龍太郎はエリツィンと川奈で首脳会談を行い、新たな提案をした。内容は(1)択捉島とウルップ島との間に両国の最終的な国境線を引く、(2)日露政府間で合意するまでの当分の間、四島の現状を全く変えないで今のまま継続することに同意する、(3)ロシアの施政を合法的なものと認める、という内容だ。この提案の注目点は、1956年宣言第9項にいう平和条約締結後の歯舞・色丹の返還を直ちに求めていない点だ。いわば返還前の沖縄の状態にまず北方領土を置くというものだ。日本が出来る最大限の妥協案を提案したということだ。歴史的に見てロシア側も日本側も妥協案を考えるときは「2島+α」の傾向を帯びることになるが、恐らく安倍も何らかの「2島+α」を考えているものとみられる。官邸は国家安全保障局長・谷内正太郎も同様の考えであるといわれている。しかし、外務省当局は伝統的な「がちがちの4島返還論」に徹しているようであり、安倍も手を焼いているといわれる。日本の首相でロシアの大統領と親交を結んでいる例は珍しく、今後4月の外相・岸田文雄と外相ラブロフの会談を経て、5月の首相訪欧の機会に保養地ソチで開かれる安倍・プーチン会談の展開が極めて興味深い。
柔道家のプーチンは、就任直後に「始め!」と領土交渉を宣言、その後「私たちは何かしらの勝利を求めるべきではない。 この状況で受け入れられる妥協を求めていくべきだ。 それは“引き分け”のようなものである」と述べた。柔道の判定には「一本」「技有り」「有効」「効果」の4種類がある。安倍は「引き分け」よりせめて「効果」に持ち込みたいところであろうが、その可能性はロシアの窮状と正比例する。すべては5月までにプーチンが「地獄」を見ているかどうかにかかることだろうが、危機的状況にはまだ時間がかかるものとみられる。昨年9月の段階では岸田に対して外相ラブロフは「第2次大戦の結果、北方四島は戦勝国ソ連のものになった。敗戦国日本には、口を出す権利はない」という趣旨の論理を展開、強硬姿勢を崩さなかった。ラブロフは記者会見で、ウクライナ問題で日本が対ロ制裁に踏み切ったことが両国間の雰囲気を損ねたという考えを強調している。問題はロシアがこの強気の姿勢をいつまで続けられるかにある。もちろん安倍はこの間米国に手を貸して、米欧諸国と足並みを揃えて「プーチン追い込み」に加担すべきであることは言うまでもない。
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