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2016-02-01 00:00
(連載1)米金利と石油の国際政治学
田村 秀男
ジャーナリスト
2016年、世界の政治経済情勢を左右する鍵は、米金利と石油価格だとみる。米連邦準備制度理事会(FRB)による市場の利上げ期待は原油価格をさらに押し下げ、エネルギー収入が政府予算の5割近くを占めるロシアを苦しめる。中国の対外膨張を担う国有企業は人民元安で債務負担増と株暴落の泥沼に沈む。
FRBのドル資金発行残高と原油相場と中国最大の国有石油資本「ペトロチャイナ」の株価の変動を重ね合わせてみる。FRBは08年9月のリーマンショックのあと3度にわたって資金を大量増発する量的緩和(QE)を実施し、14年10月に打ち切った。QEと原油相場は見事に連動している。QEの終了観測が出始めた14年半ばから余剰ドルは市場から引き揚げ、原油価格は下落し始めた。利上げの動きの表面化とともに下落傾向は加速している。
ロシア経済は旧ソ連時代のエネルギー依存体質を受け継いだ。1980年代、当時の米レーガン政権は高金利によって石油相場を押し下げた。資金難のモスクワはワシントンが仕掛ける軍拡に対抗できなくなった。結末が91年のソ連崩壊である。ロシア帝国復興をもくろむプーチン政権に対し、ワシントンはレーガン時代の戦略を参考にしているかのようだ。FRB首脳陣は、2015年12月中旬に景気への衝撃を憂慮する内外の根強い慎重論を押し切って利上げに踏み切ったが、今年も段階的に追加利上げする姿勢だ。利上げの数日後には米議会が米国産石油輸出解禁に踏み切り、石油市場急落に弾みをつけた。
ワシントンに振り回されるプーチン政権としては、エネルギー市場の支配権を確保したい。14年3月のクリミア編入、15年9月のシリアへの軍事介入には石油や天然ガスのパイプライン戦略がからんでいる。ロシア産天然ガスの大半は親米のウクライナを経由して欧州に供給されている。パイプライン・ルートのクリミア半島はロシアにとって地政学的要衝である。シリアはイラクやイランなど中東の欧州向け石油パイプライン計画の中心である。シリア政権が親米欧派に代わってパイプライン計画を実現すれば、欧州はロシアへのエネルギー依存度を大きく下げられる。ロシアが反米のアサド政権を見放すはずがない。(つづく)
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