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2016-01-22 00:00
甘利は自発的に辞任すべきだ
杉浦 正章
政治評論家
まるで、敵軍を散々に打ち破ってきた真田丸が、冬の陣の終了後破壊されつつあるかのようである。環太平洋経済連携協定(TPP)の締結など、内閣でも官房長官・菅義偉と並んで「殊勲甲」に値する功績をあげてきた経済再生担当相・甘利明が、「週刊文春」の報道で息も絶え絶えとなっているのだ。週刊誌報道と言っても、今回の金銭授受疑惑はおおむね真実に近いとみられ、疑惑が、秘書はもちろん甘利自身に及ぶことは避けられない。「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という言葉がある。予算の本格審議を控えて、首相・安倍晋三は短期決戦で態勢を立て直す必要がある。甘利は進退窮まった。ここは自ら閣僚を辞任して、本丸を生かすときだ。
疑惑の粗筋は、千葉の建設会社が道路建設をめぐる都市再生機構との補償交渉で、甘利側に「口利き」を依頼し、補償金2億2000万円を得た見返りに、総額1200万円を献金。しかし、甘利側の政治資金収支報告には一部しか記載されておらず、政治資金規正法違反かあっせん利得処罰法違反が問われる、というものだ。とりわけ焦点は2013年11月に大臣室で、また2014年2月に甘利事務所で、甘利自身がそれぞれ50万円を受け取ったとされる点だ。1月21日の国会審議でも取り上げられたが、甘利は建設会社社長らとの面会については認めたが、金銭の授受については「記憶があいまい」と答弁した。「記憶にない」はロッキード事件以来の国会答弁の定石だが、甘利の場合、面会は記憶して金銭授受は「記憶にない」では、つじつまが合いにくい。この場合明確に否定出来ないものがある証拠だろう。
週刊誌報道はいいかげんなものが多いが、今回の文春の調査報道は、最初から完結しているような見事さである。これは「対甘利工作」に当たった張本人である建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武からの直接情報に基づいているからだ。一色はいつ誰と会ったかなど膨大な資料やメモ、50時間以上にわたる録音データなど、あらゆる証拠を文春に提供しており、文春はこれに基づいて記事を構成している。甘利との会談についても写真や録音内容を証拠として添付しており、極めて真実性が高いものとみられる。甘利はこの報道が行われることを、19日の段階で安倍に報告しており、21日の国会答弁はかなり練り上げた上でのものと想像される。この中で甘利は、前述のように2回にわたる会談は認めたが、50万円の授受については「記憶あいまい」にとどめた。その一方で秘書については、「なんでこんなことをウチの秘書がやったのか。話を聞いて驚いた」などと全く関知しない姿勢を取り続けた。この“作戦”を分析すれば、最終的には自らが政治資金報告書の訂正で対応し、秘書についてはこれまで政治家がやってきたように「秘書が秘書がのなすりつけ」で対応しようとする両面作戦のように見える。複数の専門家が秘書の場合はあっせん利得罪が成立し得るとみている。
しかし、建設会社社長らから50万円を2度にわたって受け取り、その“カネの性格”を知らなかったでは済まされまい。秘書が危ない橋を渡っているならこれにブレーキをかけるべきところだが、自分自身も金銭を受け取ったのでは、責任を問われるのは避けられまい。こうした“好餌”を前にして、野党はチャンス到来とばかりに勇みだっている。安倍にしてみれば、来年度予算の成立、TPPの調印と国会審議、5月のサミット、7月の国政選挙という重要政治日程の流れを前にして、この場面は私情を捨てた判断をすべき時だろう。事実関係の明白さからいって、かばってもかばいきれないのが実態だからだ。加えて文春は国交省の局長への商品券の流れにまで言及している。事実ならば単に甘利本人と事務所の問題だけでなく、内閣全体の姿勢が問われる問題にまで発展しかねない。甘利本人は国会で「職務を全うする」と辞任を否定しているが、最近では珍しく与党内から甘利辞任論が出始めている。こともあろうに「TPP国会」で答弁の中心となる甘利は、まず進退窮まったのであって、安倍はとりあえず早期の辞任を求めるのが正しい。遅くても29日頃とみられる衆院予算委前には自ら辞任するようにすべきであろう。
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