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2016-01-05 00:00
オバマのレームダック化で安倍の責任重大に
杉浦 正章
政治評論家
米大統領オバマのレームダック化の間隙(かんげき)を縫うかのように中国国家主席・習近平とロシア大統領プーチンがそれぞれ「覇権」へと動き、国際政治はまさに食うか食われるかの激動期に突入している。米国は来年1月に新大統領が誕生すれば、民主党でも共和党でもオバマの作った「米国劣勢」の挽回へと動く。しかしそれまで1年の“間隙”が問題だ。今年の世界外交を俯瞰すれば、その“間隙”の調整役として首相・安倍晋三のリーダーシップが求められる年だ。加えて対ロ外交でいかに“一歩前進”の地歩を築くかだ。安倍の今年の合い言葉「挑戦」がどう発揮されるか、生やさしい外交環境ではない。今年の安倍の外交は前半に集中する。5月26、27日の伊勢志摩サミット議長国としての役割に加えて、日韓慰安婦合意の総仕上げなどハードルは高い。サミットの焦点は、端的に言えばテロ対策と中国の膨張主義への対応に絞られる。テロ対策はシリア内戦に端を発したテロリスト集団イスラム国(IS)と、これがもたらした難民問題が焦点となる。シリアの内戦ではアサド政権への対応をめぐって同政権を支持するロシアと、支持しない米欧との確執が事態を複雑化させている。足並みがそろわないことがISを有利にさせている側面があるが、ISへの空爆では一致している。
ロシアは戦争では常に先を“狡(こす)っ辛く”読む。ロシアの爆撃は、第2次大戦で北方領土を奪ったように対IS戦終結を見通して中東進出への足場を築こうとしているのだ。最終的には米国の新政権が、空爆で壊滅的になったISを地上軍を投入して掃討作戦に乗り出す可能性がある。欧州も当然地上軍を投入するだろうが、その場合日本に後方支援を求める可能性も否定出来ない。こうした底流を先読みしたサミット対応が安倍にとって重要となる。日本としては中東では旧宗主国ではなく、旧宗主国と中東との因縁の争いに巻き込まれる必要は無いが、石油依存度は高く、無視は出来まい。戦況にもよるがあえて火中のクリを拾う必要は無い。まずは経済支援のカードを切るしかあるまい。また難民受け入れを日本に要求する国はないと思うが、あっても日本は受け入れる必要は無い。難民が出なくなるように様々な援助をすればよいことだ。サミットにおける「安倍調整」は、加盟7か国の「食い違い」を際立たせる事を避けるのはもちろん、ロシアと加盟国との調整役も重要であろう。
安倍はサミット議長国首相として、他国首脳も行っているように参加国行脚に出る。3月から4月にかけて米国とカナダ。5月連休には訪欧だ。かつての加盟国ロシア訪問は、春に予定されている。北方領土問題での進展と同時にサミットとプーチンとの関係調整も重要な点となろう。プーチンが安倍の訪露を地方巡りにしようとしていることも、昨年の訪日延期への意趣返しと受け取れなくもない。日程次第では訪露を蹴飛ばす「挑戦」が必要になるかも知れない。石油安と対露制裁がもたらす経済の疲弊により、対日関係を重視したいのはロシアの方が深刻だ。サミットは、よほど周到な準備と根回しがないと議論の水準とテーマがすれ違う危険がある。ISといい、テロといい、もはや「準戦時中のサミット」並みの緊張感が必要となろう。
さらにサミットでの温度差は中国問題をめぐっても出る可能性がある。中国国家主席・習近平の海洋進出と膨張路線は新年早々から不変であることが証明された。“弱虫オバマ”の心底を読み切ったかのように習近平は南沙諸島に作った滑走路で航空機を飛ばすという示威行為をして、埋め立てを既成事実化しようともしている。また「ロケット軍」を発足させ、核ミサイル戦力の強化や宇宙の軍事利用を加速しようとしている。安倍は米国と共に中国の覇権封じ込めの方向を堅持しているが、欧州諸国は安全保障上の問題は中東にかかりっきりであり、勢い中国の膨張主義路線には関心が薄い。日米任せで、対中貿易の実利を重視するというのが基本だ。安倍としては議長国でなければ露骨な主張も可能だが、議長国である以上米国と欧州諸国との間で「安倍調整」の姿勢を堅持する必用を迫られる。まあその間隙を縫って、議長声明などでいかに中国をけん制する表現を作り出すかが腕の見せ所ということになる。
加えて安倍の「温度差調整」外交が必要となるのは日韓関係であろう。慰安婦問題は昨年末の安倍と朴槿恵の“手打ち”で歴史的な合意を見て「最終的かつ不可逆的な解決」に達したが、まだ骨がのどに刺さったままである。筆者が最初から指摘しているように、日本大使館前の慰安婦像撤去問題が残っている。慰安婦問題の象徴である慰安婦像が国際法に違反して、こともあろうに大使館前に設置されたままでは、まさに仏作って魂入れずである。撤去なしに10億円を支払う必要は無いし、そもそも撤去が前提の合意だ。韓国側にダメ押しの確認をする必要がある。合意を踏まえ、アメリカを加えた日米韓の3か国が外務次官級の協議を今月中旬に東京で開く方向で調整が進んでいるが、こうした機会を捉えて撤去の確約を取らねばなるまい。
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