ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2015-12-21 00:00
(連載3)ジブチにおける中国の軍事拠点建設がもつ意味
六辻 彰二
国際政治学者
現在では、安保理常任理事国のなかで最大規模の兵員をアフリカでの国連PKOに送っています。これもやはり、アフリカ内部での反中世論の広がりを背景とした「貢献」といえるでしょう。ただし、国連という枠組みのなかでの活動はともあれ、安全保障分野での二国間協力について、中国は長く慎重な立場を崩してきませんでした。それは自らの経済発展という前提に抵触するだけでなく、アフリカにおける自らの立ち位置にも関わる話です。批判があるにせよ、中国が少なからずアフリカ諸国で支持される(2013年のピュー・リサーチ・センターの調査によると、世界平均で「中国に好感をもつ」割合は50パーセントで、「米国に好感をもつ」の63パーセントから水をあけられたものの、アフリカでの中国のそれは72パーセントに及び、米国の77パーセントと大差なかった)背景としては、中国が欧米諸国と自らを対置させてきたことがあげられます。先述のように、植民地時代からほぼ一貫して、特に1980年代以降、アフリカ諸国は欧米諸国からの「外圧」にさらされてきました。1980年代以降の新自由主義的な経済改革の要求は、その象徴です。しかも、その改革で成果が出たならまだしも、1990年代末に至るまで、アフリカは成長から見放されていました。さらに、冷戦終結後に欧米諸国が人権保護や民主化を援助の条件にしたことで、貧困地帯のアフリカは、他地域にも増して、その圧力をまともに受けることになりました。
これらに鑑みれば、アフリカに根深い欧米不信があったとしても不思議ではありません(ただし、その裏返しで、欧米諸国に対する一種のあこがれを多くの人がもっていることも確かです)。この観点からすると、「欧米諸国と違う」ことを強調することが、アフリカにおける中国の存在感の一因になったといえます。アフリカにおいて中国が、相手国への内政に関与することとともに軍事的な関与を控えてきたことは、その象徴でした。ところが、アフリカ進出を本格化させるにつれ、中国はこれら「欧米諸国との違い」を強調し続けることが難しくなってきたといえます。その端緒は、2013年12月に勃発した南スーダン内戦で、中国政府が当事者に停戦を呼びかけたことです。これは南スーダンの油田開発に中国企業が多数関わっていることを考えれば当然ですが、他方でダルフール紛争などどこ吹く風といった風情で経済活動にいそしんでいたことに鑑みれば、従来の「主権尊重」から方針が微妙にシフトしたことを示していました。つまり、アフリカ内部での活動が本格化するにつれ、アフリカの安定と中国自身の利益がリンクし始めるなか、完全に西側先進国と歩調を合わせることはないとしても、中国も「主権尊重」「内政不干渉」だけではやっていけなくなったといえます。
そして、今回の軍事拠点の建設です。それに先立つアフリカ地域における中国の軍事展開としては、2011年12月に報じられた、インド洋の島嶼国であるセーシェルでの拠点建設があげられます。この際、セーシェルからの申し出に対して、中国側はむしろ「基地建設」の否定にやっきになりました。それは従来からの方針に反するだけでなく、インド洋一帯を「内海」と捉えるインドが強い懸念を示したためです。その結果、「基地」ではなく「補給所」というグレーな位置づけで決着しており、「セーシェルに中国海軍の基地はない」というのがインド政府の公式見解になっています。しかし、ジブチのそれは、明らかに「基地」と位置付けられています。これもやはり、アフリカにおける安定の確保が中国自身の利益にとって欠かせなくなっていることを示しますが、いずれにせよこれでまた「欧米諸国との違い」は曖昧なものになっていくことになります。これに関して中国の知識人からは、「これまで米国がやってきたことを中国がやるだけ」という、いわば開き直った意見も聞かれます。この論調は、トウ小平の方針から離反し、経済だけでなく安全保障を含めた、いうなれば「普通の大国」になることを是とするものといえるでしょう。さらに、例えば新華社通信が10月に「ウガンダ軍司令官からアフリカでの中国による軍事的な関与に期待が示された」ことを伝えるなど、アフリカにおける安全保障分野での関与を増やすことを既成事実化する流れを見出すことができます。
もちろん、軍事予算が年々増加しているとはいえ、中国が米国と並ぶ軍事大国になる道のりはまだ遠いでしょう。しかし、危険地帯での活動における自国兵士の生命や安全に、米国ほど顧慮しなくてよい中国は、その規模にかかわらず、アフリカでの活動を行いやすい条件を備えているといえます。すなわち、ジブチでのそれを端緒とする中国の軍事展開は、アフリカでの地歩をより固める効果を内包するでしょう。ただし、その一方で、軍事展開は「欧米諸国との違い」をますます曖昧にすることになり、ひいては中国がアフリカで支持を集めてきた条件を自ら掘り崩すことにもなり得ます。その意味では、中国政府にとっても大きなジレンマがあるといえます。いずれに転ぶかは、中国がアフリカでどの程度「熱心に」人民解放軍を運用するかによります。これらに鑑みれば、既成事実化を図りながらも、ソマリア沖など死活的なエリア以外で、今後すぐに部隊展開を図れる体制を中国がとることを想定することは困難です。とはいえ、以上に述べたような文脈に照らせば、それがもたらす海賊対策の効果とは別に、長期的には中国による安全保障分野での進出の本格化が、今後のアフリカにおける外部勢力の力関係にも大きく影響することもまた確かといえるでしょう。(おわり)
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会