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2015-12-19 00:00
(連載1)ジブチにおける中国の軍事拠点建設がもつ意味
六辻 彰二
国際政治学者
12月4日、北東アフリカ、ジブチの外相は、中国海軍が拠点を設けることを発表しました。中国がアフリカ地域で軍事拠点を設けるのは初めてのことです。これに関して、中国政府は「海賊対策」を強調しています。今回の決定は、中国の「海外膨張」の一端とみなされやすいのですが、コトはそれほど単純ではなく、同国の対アフリカ・アプローチのシフトを象徴するものといえます。今回、中国が軍事拠点を設けるジブチは、もとはフランスの植民地だった土地で、独立後もフランス軍が駐留してきました(フランスはアフリカにおける自国の権益保護のため、旧宗主国のなかで唯一アフリカに部隊を駐留させている)。2001年からは対テロ戦争と海賊対策のため、米軍も軍事拠点キャンプ・ルモニエ(約4,500名)を設けています。北東アフリカのこの一帯は、中東ほどスポットが当たらないものの、その不安定さでは引けをとりません。近隣にはかつてオサマ・ビン・ラディンが潜伏し、今でも米国が「テロ支援国家」に指定しているスーダン、そのスーダンから2011年に独立しながらも、その後2013年に内戦に突入した南スーダン、1990年代に全面的な内戦に陥り、国家として破綻したソマリア、そのソマリアに拠点をもつアルカイダ系のイスラーム過激派アル・シャバーブを支援しているといわれるエリトリアなど、地域全体の不安定要素となる国がひしめいているのです。
「テロの本場」中東のすぐそばという立地条件も、これに拍車をかけています。なかでも、地域外の各国が直接的な脅威と捉えているのが、ソマリア沖やアデン湾の海賊です。「軍閥」と呼ばれる武装集団が各地を実質的に支配し、あたかも日本の戦国時代のような様相を呈してきたソマリアでは、失業や貧困が万延し、他方で有り余るほどの武器が国際市場を通じて(「需要があるところに供給が発生する」という市場の原理に基づいて)流入してきました。海賊の横行は、アル・シャバーブなどによる資金調達であると同時に、貧困と武器が万延する状況における「生計を立てる手段」でもあるのです。いずれにせよ、ソマリア沖やアデン湾でタンカーなどを襲撃する海賊の活動が活発化する状況は、日本にとっても他人事ではありません。この海域は地中海からスエズ運河、紅海を経て、インド洋に至る海上ルート上にあり、国際海運の要衝にあたります。そのため、日本のタンカーも多くがここを通過します。この状況のもと、2008年からソマリア沖やアデン湾では、国際海事機関(IMO)の決議を受けて、米海軍を中心とする第150合同任務部隊が海上警備活動を共同で行っています。この多国籍部隊はNATO加盟国の他、オーストラリア、ニュージーランド、パキスタンなどの艦船や、2009年から日本の自衛隊も参加しています。また、事実上、米国の第5艦隊によって指揮される第150合同任務部隊とは別枠で、ロシアや中国も2008年頃からこの一帯に艦船を派遣し、自国や友好国の船舶を中心に警護活動を行ってきました。
このような状況のもと、ジブチは各国の艦船の停泊地としてスポットがあたるようになったのです。ジブチは必ずしも民主的とは言えませんが、北東アフリカで(エチオピアとともに)例外的に総じて安定し、大きな港を持ち、さらに(植民地主義の歴史からこれに拒絶反応が強いアフリカ諸国のなかで)外国軍隊の駐留に比較的慣れていることが大きな要因です。自衛隊も、2011年からP3C哨戒機の離発着などを行う基地を設けており、約180人が派遣されています。それは裏を返すと、砂漠地帯で資源にも乏しいジブチにとって、基地や外国の艦船が重要な収入源になっていることも示します。各国がいわゆるシーレーンの安全確保のためにコストを負担しているなかで、中国が海賊対策に協力すること事態は、その限りにおいては他の国にとっても利益となります。これまで、(自国の艦船が主な対象であるとしても)中国海軍がソマリア沖で警備活動を行うことに、米国政府は「海賊対策の一翼を担うもの」と歓迎する意向を示してきました。しかし、人民解放軍の海外展開という観点から、今回の決定に対する警戒感も米国内には広がっています。中国の軍事拠点が建設される予定の同国北部オボックが米軍のキャンプ・ルモニエと近いことは、米国の懸念に拍車をかけています。
改革・開放を推し進めた鄧小平は、中国の台頭が必ず周辺からの警戒を招くことを予見して「平和的発展」の路線を敷きました。しかし、中国が巨大化するにつれて、東シナ海や南シナ海などで、日本を含む周辺国との摩擦が増えたことは、周知のとおりです。それにともない、中国が軍事力を増強させてきたこともまた確かです。中国国内で格差の拡大や生活不安、さらに経済成長への懸念が広がるなか、共産党体制はナショナリズムを鼓舞しており、これが「大国としての」軍拡を支えているといえるでしょう。ジブチでの軍事拠点の建設に関して、習近平国家主席は「我々の国際的な身の丈にふさわしい強固な国防力と軍隊を築くことは、国家安全保障と開発の利益に適合する」と述べたと新華社通信は伝えていますが、その一方で、復旦大学の沈丁立(Shen Dingli)教授がニューヨーク・タイムズのインタビューに対して答えたように、「我々の航行の自由を守る必要があり」、「海賊でもISでも、そして米国でも、誰であっても我々の行く手を阻む者があるなら、これを切り拓く」と強気の発言は政府外でも珍しくありません。(つづく)
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