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2015-11-20 00:00
日本共産党の「国民連合政権参加」への懸念
加藤 成一
元弁護士
日本共産党は、民主党など野党との選挙協力により「安保関連法廃止」「立憲主義回復」「安倍内閣打倒」などを目的とする「国民連合政府」の樹立を提唱している。これに対し、一部の野党や一部の学者・評論家・国民の間には、賛同する動きもみられる。しかし、共産党の「国民連合政府」への「政権参加」には、いくつかの懸念がある。まず、日本の安全保障上の懸念がある。共産党は、「国民連合政府」では日米安保条約の廃棄や自衛隊の解消を求めず、有事の場合は、在日米軍や自衛隊を活用して対処するから安心であるかのように言っている。しかし、もともと綱領で「日米安保条約廃棄」「米軍及び米軍基地撤廃」「自衛隊解消」を明記している共産党が、「国民連合政府」に「政権参加」した場合には、日米同盟が悪化し、形骸化、空洞化する危険性を否定することはできないであろう。
もしも、日米同盟が形骸化、空洞化すれば、それは直ちに日本の「抑止力」の著しい低下をもたらし、尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海において、力による現状変更の意思を隠そうともしない、核を保有する軍事大国の中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に、日本に対する軍事力行使を誘発しかねないのである。日米同盟の形骸化、空洞化による「抑止力」の著しい低下は、日本独自の核抑止力を一切保有せず、もっぱら日米同盟にもとづきアメリカの核抑止力のみに国家の存立を依存している日本の安全保障にとっては、極めて重大なことであり、甚だしく危険である、と言わなければならない。次に、共産党の立場からすれば、共産党が綱領において、統一戦線の政府である「民主連合政府」の実現、さらには、「社会主義・共産主義社会」の実現を目指すと明記している以上、今回提唱の「国民連合政府」は、共産党が実現を目指す「民主連合政府」、さらには「社会主義・共産主義社会」へ移行するための単なる「過渡的政権」に過ぎないであろう。すなわち、「国民連合政府」は「民主連合政府」を実現するための手段とされる懸念がある。
そうだとすれば、国民には、目先の「国民連合政府」の是非だけでなく、その先の共産党が実現を目指す「民主連合政府」、さらには「社会主義・共産主義社会」の是非をも含めて、今後の各種選挙において冷静な判断が求められるのである。さらに、日本共産党は、その綱領で「科学的社会主義」(マルクス主義)を擁護する自主独立の党である、と明記している。「科学的社会主義」の本質は、階級闘争に基づく「プロレタリアート独裁」により、社会主義・共産主義社会を実現することである(カール・マルクス著『ゴーダ綱領批判』渡辺寛訳、139頁、昭和37年、河出書房新社刊)。そして、「プロレタリアート独裁」とは、一旦獲得した社会主義政権に対する階級敵による反抗(反革命)を打ち砕くためには、暴力による抑圧をも容認する労働者階級の権力である、と規定される(レーニン著『国家と革命』邦訳レーニン全集第25巻499頁以下、1957年大月書店刊)。
日本共産党が、その綱領で「科学的社会主義」を擁護すると明記している以上、その本質である「プロレタリアート独裁」の概念を、いまだ放棄せず堅持している、と考えるのが自然であろう。そうだとすれば、共産党が「国民連合政府」に「政権参加」した場合には、その後一切選挙は行わず、一旦獲得した政権を手放さない可能性もゼロとは言い切れないのではないか、との懸念がある。なぜなら、旧ソ連、旧東欧、中国、北朝鮮、ベトナム、カンボジア、キューバなど、「プロレタリアート独裁」によるすべての社会主義国家の歴史を見ると、いずれも一旦獲得した政権を金輪際手放さず、政府に反対する言論は「反革命」とみなして容赦なく弾圧し、選挙による政権交代など一切行われてこなかったからである。このように、日本共産党の「国民連合政府」への「政権参加」には、さまざまな懸念がある。したがって、野党や国民には、今回共産党が提唱した「国民連合政府」について、単に目先の「安保関連法廃止」などの是非だけではなく、もっと深く「共産主義の本質」を見据えた冷静で誤りなき判断が求められるのである。
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