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2015-11-16 00:00
(連載2)移民問題は近視眼的であってはならない
牛島 薫
団体職員
また、経済面からみても、大抵の移民非熟練労働者は経済基盤が脆弱であることが予想されるため、日本で在来国民たちと同様の生活水準を保つのは容易なことではない。障壁の多い日本社会と折り合いをつける際に彼らに強度の負担が生じるのは、外国人技能実習生制度を好例とした外国人就労者の過酷な現状を見れば明らかである。経済問題にとどまらない社会の動揺は想像に難くない。短期的な解決策は、移民が日本の生活に適応するための社会保障制度の構築となるが、高齢者向け社会保障制度の維持に苦しむ日本政府にそれを十全にする余裕があるのかという問題があるし、移民を手厚く保護するより先住する日本人の少子化対策を手厚くすることが先決であるという議論になりかねない。
また、外国人建設就労者受入事業が今年度から開始されたことからも見て取れるように、現在ブルーワーカー系の業界を中心に移民の要請が強い。しかし、景気循環の期間を考えると数年内に日本は再び不況に陥る可能性が充分にあるし、建設業界等の設備投資の動向を見るに各企業は景気後退を織り込み済みであろう。その時、余剰設備ならば処分のしようもあるが、大量リストラされる労働者を今更出身国に送還することなどはできない。当然、わが国社会保障制度の枠内で移民失業者の生活や再就職を支援していかなければならず、それはネイティブの日本人よりはるかに困難を極めるだろう。いずれにせよ、人口構成へのテコ入れという長期的なメリットこそ認められるが、移民による労働力確保は現在推進派が謳うような即効性のある経済政策にはなりえない。
他方、中長期的な視点からは、必要とは必ずしも思わないが移民は有効であると考える。しかしそのためには、同化政策(ここでいう同化とは、移住者の文化と日本文化を融合した新しい日本文化を創造することで、元来の同化政策とは意味合いが異なる)が欠かせない。まず多文化主義を合理的に受容するための国民教育の発展的改革が方策となるだろう。フランスでは旧植民地からの移民が多く、例えばあるマルセイユ郊外の公立高校では生徒の半数がアフリカ系移民もしくはその子孫であり、黒人と白人が共にフランスを等しく共有し、互いの宗教観や民族性を理解し受容しあうことを徹底的に教育されて育つ。現代の若者は伝統に拘泥せず多様性を尊重し新しい価値観を創造する精神性を習得するのである。他方、フランス国民としての一体性を保持するための愛国教育も盛んだ。ただ、表裏一体の多文化教育と愛国教育。現在の日本の教育界がそれらを整備するために抜本的な教育改革に取り組む意欲があるかは、大いに疑問である。
一例として教育問題を挙げたが、これに限らず移民政策の先達たる欧米を始め、参考にすべき事例や対策は枚挙にいとまがなく大いに参考になる。しかし、多方面にわたる難題を持つイシューにもかかわらず、移民問題を日本の問題として議論するとき、単純な労働力補充としての議論、もしくは民族問題になりがちなのは残念である。移民は労働生産するロボットを輸入することではないし、エイリアンの侵襲でもない。「人権を持った尊厳ある知的存在を未来永劫の家族として迎え入れること」だという視点で議論されるべきだ。(おわり)
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