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2015-10-29 00:00
日中韓首脳会談の地歩は安倍が確保
杉浦 正章
政治評論家
韓国大統領・朴槿恵は日中韓3か国首脳会談を11月1日に開催して、国民向けに“指導力”をアピールして落ち目の支持率の回復を図る。その一方で慰安婦で成果を得られない首相・安倍晋三との会談は翌日に回して、昼食もせずにそそくさと済ませる方針だという。女の淺知恵とはよく言ったもので、この日程を見る限り全く大局観のない大統領であることが分かる。読売は「冷たい首脳会談になる」との見方を紹介したが、言い得て妙である。安倍はもとより慰安婦問題などでの謝罪要求に応じる必要などはない。日本国民は「慰安婦にうんざり」が世論調査で80%に達し、米政府も「うんざり一色」だ。慰安婦偏執大統領のペースにはまることもない。3年半ぶりの3国首脳会談は、(1)米イージス艦の南沙進入初戦での中国の敗北、(2)中韓抜きでのTPP(環太平洋経済連携協定)妥結、(3)中韓経済の失速と対照的に好調なアベノミクス、などで安倍は中韓に対して外交・経済で有利な地歩を確保している。会談をリードするのは安倍だろう。
11月は日中韓首脳会談に続いて15、16日はG20、18、19日はAPEC首脳会議、21、22日はASEAN首脳会議と、重要外交日程がひしめく。安倍は米国とともにこれらの会談をリード出来る立場にあり、中国とこれに追随する韓国は、どちらかと言えば孤立化させられる潮流がある。その手始めが日中韓首脳会談となる位置づけだろう。3国首脳会談は官房長官・菅義偉が強調するように経済問題が主議題となるだろう。緊迫する極東情勢を、大きく緊張緩和へと導くには経済、環境、医療、文化などで協力関係の突破口を築くのが最良の道だ。とりわけ中国首相・李克強は経済通であり、安倍とは話が合うだろう。折から中国はバブルの紛れもない崩潰で経済が失速、日米主導によるTPPの成立で、戦略的にも経済的にも封じ込められたという焦燥感がある。その裏返しが、習近平のボーイング300機購入、英国に7兆円の巨額契約など、臆面もない札束外交であろう。成金のように札束を見せて中国経済の躍進ぶりを誇示するのだが、「払えるのか」とボーイング株は下落、英国世論も「金で節操を売った」と政府に批判的だ。
こうした中で中国は本音ベースではTPPに加盟したいのだろう。安倍はリップサービスでもいいから、「中国もTPPに入ったら」と言えばよい。だが、実現はなかなか容易ではない。日米は対中戦略として交渉を妥結へと導いた側面があり、とりわけ米国はハードルを上げるだろう。米国は中国が入りたいのなら、自由主義経済のルールを守れというだろうし、TPP自体がそのルールの上になり立っているのであって、株価を操作し、国費を使って特定企業の輸出を支援するような国では、そもそもの加盟条件が満たされない。安倍は朴槿恵も「TPPに入りなさいよ」と対中経済一辺倒の朴をけしかけることも出来る。安倍は日本がバブルから脱した経験を李克強に語ることが出来るし、環境対策で青い空と、鮎の住む河川を回復したノウハウを伝えることも出来る。
こうしてまず極東緊張緩和への突破口としての日中韓首脳会談だが、どうしても政治が大きな陰を落とすことは避けられまい。とりわけ米艦の南沙進入問題の初戦は、習近平の面目を丸つぶれにした上に、追尾するだけで手も足も出ない中国の完敗に終わった。この事実は、尖閣諸島への“ちょっかい”が最近鎮まってきたことと合わせれば、なりふり構わぬ中国の膨張主義がいよいよ限界に到達した事を意味するだろう。首相補佐官・柴山昌彦はテレビで安倍が南沙問題で発言する方向にあることを明らかにした。これによると安倍は「力による現状変更は国際社会共通の懸念事項である」と中国の自制を求めるという。朴はどっちつかずの「コウモリ路線」だが、オバマから首脳会談後の記者会見で「はっきりと物を言うように」たしなめられており、右往左往するしかあるまい。
問題は慰安婦問題での「中韓共闘」にどう対処するかだが、李克強は朴ほど歴史認識にこだわることはなく、朴につきあう程度だろうとみられる。その落差を突くのがうまいやり方ではないか。例えば中国の歴史認識問題には言及しても、朴の慰安婦言及は無視するといった具合だ。朴は朴でこれまで慰安婦問題を日韓首脳会談の前提としてきたにもかかわらず、オバマにきつく言われて渋々会談するだけに、一言言わないで済ませる気持ちはないだろう。安倍は基本的には「解決済み」の門前払いを食らわせればいい。せいぜい譲歩しても、これまでの言っているお詫びに言及した「河野談話の継承」くらいだろう。韓国政府は「昼食会も行わない」と世論向けに強い姿勢を見せているが、この国はいつも民族的な偏狭さを感じさせる。もっともちまちました韓国料理など食わしてもらう必要も無い。日本で会談を行うときは、度量を見せてやればよい。朴は外向きは「会ってやる」の姿勢だが、安倍にしてみれば、朴が慰安婦を前提にしない会談に追い込んだことになり、持久戦に勝った意味がある。朴は台所で手ぬぐいくわえて「悔しい-!」と金切り声を上げても遅いのだ。こうして構図の上では2対1の会談だが、環境は安倍が有利な地歩を占めることになった。
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