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2015-10-09 00:00
ノーベル賞の季節の韓国の憂鬱
岸田 はるか
会社員
毎年10月の6日から10日ごろにかけて、その年のノーベル賞受賞者が発表されます。この時期が近づくと、各メディアは分野ごとの受賞者を予想し、ブックメーカーはめぼしい候補者のオッズを発表します。そもそもノーベル賞は各分野で顕著な貢献をした個人や団体に出されるもので、その個人や団体が属する国に対して出されるわけではありませんが、それでもやはり一部の国のナショナリズムをかき立ててしまうようです。毎年当たり前のように受賞者を出す米国などは落ち着いたものですが、まだ受賞者を出したくても出せていない国、もっと受賞者の数を増やしたい国などは、自国からの受賞者の有無には無関心ではいられないというのが本音ではないでしょうか。
東アジアでいえば、ノーベル賞にご縁があるのはもっぱら日本、という時代が久しく続いていました。とくに自然科学(物理、化学、生理学・医学)の分野は昨年まで日本が独占していました。そして今年、屠呦呦氏という中国国籍の研究者が生理学・医学賞を日本およびアイルランドの研究者と共同受賞しました。中国で教育を受け、中国で研究を続けてノーベル賞受賞に漕ぎつけた研究者はこの屠氏が初めてです。さあ、これに落胆したのが韓国です。韓国からは、これまで自然科学の分野では一人の受賞者も出ていません。自然科学分野の受賞者の数は、今年で「日:中:韓=21:1:0」という関係になりました。そして、中国の「1」と韓国の「0」の差は計り知れなく大きいと韓国には映ったことでしょう。
たとえば、韓国の「韓国経済新聞社」は、生理学・医学賞発表直後の7日、「中国までノーベル賞の隊列に・・・落ち着かない韓国は」と題する社説を発表し、「政治が支配する社会的騒乱の中で産業が崩れ、企業は揺らぎ技術も後退している。黙々と同じ道を進んでいく学者よりも研究費をうまく獲得する教授が勢力を伸ばすのだとして質素な気風は嘲笑を買うだけだ。頭が良いほど理工系を敬遠し、医大へと集まっていく。そして彼らは整形など顔にメスを入れる。韓国社会はこのように落ち着かないのだ」と、ノーベル賞受賞者輩出には程遠い韓国社会の実態を自嘲気味に批判しています。この社説の指摘が的を得ているかどうかはここでは問いません。しかし少なくとも「日:中:韓=21:1:0」の関係については、それがまったくの偶然の産物であり、無視し去ってよい数字だとは言い切れないものがあります。この三カ国の自然科学のあり方に何かしらの違いがあっての結果だと考えるほうが自然ではないでしょうか。
では、その違いとはいったい何なのでしょうか。一つには「目先の国益には直結しないが、ひいては人類の利益に資する研究」に巨大な予算をつけることができる国家としての経済力と先見性が挙げられるかもしれません。これには、研究者の試行錯誤を許容する社会風土も加えていいでしょう。いわば目には見えにくい国の「気風」ともいうべき部分が問われているといえます。もちろん、ノーベル賞を取ることがすべてではないですし、また受賞をもっぱらの目標とすることの弊害も少なくありませんが、それにしても、中国が今年受賞者を初めて出したわけですから、韓国とてそれに続いて一人くらいは出してもいいのでは、と期待することは咎められることではないでしょう。しかし、そのためには韓国は国の「気風」をもっと風通しとくする必要があると考えます。偏狭なナショナリズムを超え、人類の利益を視野に入れた開かれたナショナリズムの志向がたとえばノーベル賞に近づく第一歩である、というのはうがちすぎでしょうか。
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