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2015-10-08 00:00
北京に甘いIMF
田村 秀男
ジャーナリスト
「ワシントンコンセンサス」という言葉をご存じだろうか。世界的に構造改革と金融市場自由化を促す見えざる連合体のことで、ワシントンに本部を持つ国際通貨基金(IMF)とニューヨーク・ウォール街出身者が牛耳る米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)が1990年代初旬に確立した。いかなる国であろうと市場原理を浸透させてグローバル金融市場に組み込む狙いがある。現在のワシントンコンセンサスの相手は北京である。東南アジア各国と韓国は90年代初め、ワシントンに誘導されるまま金融市場の自由化に踏み切ったが、投機資金の流入で不動産や金融市場がバブル化し、資金の逃避とともにバブルが崩壊した。救済融資を受けるため、各国はIMFが突きつける急激な緊縮財政・金融引き締めおよび市場統制撤廃など自由化策の受け入れを余儀なくされる。
98年1月、IMFのカムドシュ専務理事(当時)が見下ろす中で緊縮策に署名させられたスハルト・インドネシア大統領の独裁政権はその後まもなく崩壊した。IMFを批判する日本側関係者に対し、IMF幹部は「処方が間違ってもいいじゃないか。政治が変わったんだ」とうそぶいた。新自由主義がもたらすショック療法は、金融グローバル化についていけない政治の無力化を白日の下にさらし、政治制度の変革につなげられるという「ショックドクトリン」とも呼ばれる。中国は人民元をIMFの特別引き出し権(SDR)構成通貨にしようと、IMFと米財務省に強く働き掛けている。これに対し、ワシントンは、金融市場の門戸開放など自由化と人民元改革を認定条件としている。習近平政権は6月の上海株暴落の後、厳しい市場統制を敷いた。8月11日には人民元を切り下げた。
もはや元は「自由利用可能な通貨」というSDRの条件に合わないはずだが、IMFは大甘だ。今年末までに北京が金融市場自由化や元の実質的な変動相場制移行の計画を示せば、元を来年9月からSDR通貨に認定してもよい、というシグナルを送っている。大幅な金融自由化に踏み切ると、中国の株式や通貨市場はヘッジファンドに翻弄されて、98年のインドネシアの二の舞いになるかもしれないという警戒心は北京にある。アジアインフラ投資銀行(AIIB)で国際通貨としての元を利用したい習近平政権としては、できる限り小出しの自由化・改革でごまかして「SDR通貨元」を認定させる腹積もりだろう。
IMFのラガルド専務理事は、北京に前のめりで知られる。IMFがここで北京に大幅譲歩するようだと、習近平体制は「国際通貨元」を武器に政治経済、軍事両面でさらに増長し、チャイナリスクをますます世界にまき散らすだろう。体制温存は最悪だ。日本としては米国と連携し、かつてインドネシア・スハルト政権にとったような改革・自由化路線でIMFが首尾一貫するよう迫るべきだ。
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