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2015-08-28 00:00
(連載1)人民元切り下げで市場自壊
田村 秀男
ジャーナリスト
中国人民銀行が人民元切り下げに踏み切ると、大量の資本が海外に逃げ出した。中国は市場自壊を防げるのか。習近平政権はもともと「強い元」策を続けてきた。元をドル、ユーロや円と並ぶ国際通貨の地位に押し上げるという、1990年代半ば以来の中国共産党の悲願達成のためだ。国際通貨になれば、中国の国際的威信が高まる。年内の設立準備を進めている中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も外貨調達に頼らなくても、人民銀行が刷る元で用が足りる。石油も軍事技術も元で買えるようになる。韓国、東南アジアなどは元経済圏に組み込まれ、日米の影響力が薄らぐだろう。
通貨高は、アベノミクス以前の円高の日本がそうだったように、国内にデフレ圧力をかける。2008年9月のリーマンショック後の不況は不動産開発投資主導で乗り切ったが、12年には不動産バブルが崩壊し、鉄道貨物輸送量からみる実物景気はマイナス成長に転落した。習政権は14年後半、人民銀行、政府機関、国有企業さらに国営メディアまで総動員して株式ブームを演出したが、この6月に株価は暴落した。いよいよ八方ふさがり、景気てこ入れのためには元高維持策を打ち切るしかなくなった。
今月11日から元の対ドル相場の基準値の切り下げに転じたのだが、大幅ではない。10日まで保っていた1ドル6・12元を3日間で6・4元とし、切り下げ率は4・4%止まりで、しばらくは新基準値周辺で安定させる構えを見せる。切り下げ発表後、上海外国為替市場で起きたのは大量の元売り、ドル買いである。人民銀行はあわててドル売り、元買い介入で応じるありさまだ。中国には14年前半までは年間ベースで数千億ドル規模の投機資金(熱銭)が流入していた。人民銀行は流入外貨を全部買い上げるので外貨準備が膨らむ。
逃げ足も速い。不動産市場低迷などを受けて昨年後半からは逆に年間ベースで3000億ドル以上の熱銭が逃げ出した。人民銀行は外準を取り崩して元を買う羽目になるので、外準が減る。そこで上海株式市場に外資をおびき寄せたが、逃げられて、株価は崩落した。党関係者を中心とした特権階層や国有企業などは元資産の目減りを防ぐために、あらゆる手を使ってカネを外貨に替えて外に持ち出す。だからこそ、人民銀行はしきりにこれ以上の元安にしないとメッセージを市場に発信するのだが、中国の既得権益者に「愛国者」はいそうにない。資金流出のために金融市場では資金が不足し、金利が上昇している。(つづく)
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