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2015-08-26 00:00
人道的危機に陥っているイエメン
川上 高司
拓殖大学教授
1年前、イエメンでシーア派であるホーシが立ち上がったのはハディ政権に改革を求めるという平和的なものだった。その当時は彼らは政権を奪取するつもりはなかった。だが、30年間独裁政治を敷いたサレハ元大統領が権力の奪取をしたいという野望からサレハ派がホーシ派と結びついて力を増し、ついにはハディ大統領を追放して革命政権を打ち立ててしまった。元々ホーシ派はイエメンの北部を基盤としていたが、勢いを得てスンニ派勢力が強い南部へと進出しスンニ派との軋轢を生み出してしまっている。
ホーシ派はイランの支援を受けていると言われており、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国がホーシ派の勢力拡大を黙ってみているはずがなかった。とうとう2015年3月に、サウジアラビアが主導するアラブ諸国がアメリカの支援を受けてイエメンのホーシ派への空爆を開始したが、ホーシ派とスンニ派、さらに権力の奪取を目論むサレハ派の抗争は激化している。やっかいなのはいずれもがイエメンという国家の政治的安定や民主化には関心がないことである。
ひたすら権力抗争にあけくれる傍らで、特に紛争のあおりを受けているのがこどもたちだ。3月の空爆開始以来、UNICEFによれば400人近くのこどもが空爆で殺害され、377人が少年兵となって戦闘の前線に連れて行かれたという。負傷したこどもたちはさらに多いことはいうまでもない。さらに深刻なのは、サウジアラビア率いるアラブ諸国の厳しい経済封鎖で医療品さえも手に入らないということだ。ただでさえアラブ諸国の中でも貧困国で医療が滞っていたイエメンの医療水準は壊滅的だ。
イエメンの半分近くのこどもたちが食糧不足から栄養失調に苦しみ、5才以下の乳幼児の死亡率はじりじりと上昇しつつある。こどもたちの精神状態はさらに悪い。空爆や家族を亡くしたショックは、トラウマとなってこどもたちの心に暗い影を落とす。そのケアをすることもできないためその影響は将来に渡って続くとなれば、イエメン社会が被った損失は計り知れない。国連はこのような状況を「もはや戦争犯罪に近い」と、その危機的状況を訴えている。シリアやイラクへの国際社会の関心は高いがイエメンのこの人道的危機には国際社会の関心が薄い。国際社会の関心こそがイエメンの子どもたちの危機を救うまさにひとすじの糸なのである。
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