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2006-12-01 00:00
「東アジア」FTAと「アジア太平洋」FTA
寺田 貴
早稲田大学アジア研究機構助教授
米国がAPECを使ったFTA(FTAAP)の提案を行い、域内で大きく報じられている。日本のメディアでも「黒船の来襲」などと形容し、各紙が大きな紙面を割いたが、台湾を含むAPEC内のFTAに対し中国が反発するのは必至で、その実現性に疑問を投げかける向きも多く、その意図は何なのか、現在も議論は続いている。
最も有効な説明は、「米国に好ましい形で統合が進まないリスクを気にし始めた。関与する入り口を探した結論が、今まで眠っていたAPECの再活性化だったのだろう」(オン・ケンヨンASEAN事務局長)というものである。確かに、米国を排除する形で地域統合が進めば、関税撤廃など、その恩恵を享受できない米国企業は東アジアの企業との市場競争で不利な立場に立たされるため、ブッシュ政権としても看過できない動きであろう。しかし、だからといって実効性に乏しいFTAAPを提案したところで、多国籍企業を中心に進む東アジア市場統合の勢いを止められるわけでもなく、交渉など政府が関与する東アジアFTAをけん制する方策としても疑問が残り、APECを使ったFTAAP提案の思惑は、依然として釈然としない。
むろん、13カ国または16カ国による東アジアFTAもすぐに成立する話ではないため、米国にとっても即座に強力な対抗策を示す必要もなかったとも言える。ただ、その中心プレーヤーとなる日中両国が政治・歴史問題で敵対し、両国間のFTAの動きがない限り、荒唐無稽な話だと考えられていた東アジアFTAが、安倍政権になって、両国関係に(そして日韓関係にも)好転の兆しが見え始め、ひとつの大きな障害が取り除かれる可能性も出てきたため、米国としても楔のひとつでも打ち込んでおこうと考えたのかもしれない。
ここで、日本など東アジア域内FTAを推進したい国にとって重要なのは、この東アジアFTAの動きから外された米国を今後どのように扱うかという問題である。米国は従来、自らが排他された形で進むアジアの地域主義に対し、時には厳しい態度で、その進展を拒んできた。EAECやAMFがそのケースである。APECに関しても、豪州のホーク首相が89年1月に提案した際、当初米国が排除されていたため、ベーカー国務長官を中心に激しく豪州にその参加認定を迫るなど、アジアでの地域枠組みの成立に対し、強い影響力を発揮してきた。従って、米国の反発を招き、その動きが政治問題化し、東アジアFTA進展の阻害要因とならないためにも、米国の域内での扱いについて、今からその方策考えておくべきであろう。
米国を東アジアFTAの枠組みに入れることを支持する勢力が乏しい現実からみて、ひとつのオプションとして考えられるのは、米国を域内で活発化するバイのFTAネットワークに関与させることである。政治決断があれば、最も容易に交渉締結が可能なバイのFTAにおいては、米国企業に対し関税撤廃などの利益を即座に与えることができるため、その間、例え排除されていても、交渉妥結に時間のかかる東アジアFTAを米国が、さほど問題視することはないと考えられる。シンガポールと結び、タイ、マレーシアなどとバイのFTA交渉進める米国であるが、市場規模の小さいこれらの国とのFTAから得られる利益はさほど大きくない。従って、日本は、東アジアFTAの動きを進めやすくするためにも、必要とあるならば、日米FTAの可能性を含め、その対応を考慮すべきであろう。
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