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2015-07-02 00:00
(連載1)集団的自衛権をめぐる論争について
加藤 朗
桜美林大学教授
集団的自衛権をめぐって喧しい限りです。集団的自衛権行使を合憲とする憲法学者は、違憲派から文字通り悪口罵詈雑言を浴びせられています。違憲派によれば、憲法学者の中で合憲を支持するものは数パ-セントだということです。
ところで、つい最近集団的自衛権の行使を容認する学者も結構いるのではないかと思わせる本に出会いました。時の人である長谷部恭男早稲田大学教授が編集、執筆された『「この国のかたち」を考える』(岩波書店、2014年)です。同書に所収された苅部直東京大学教授の講義録「戦後の平和思想と憲法」で同教授は、元東大総長南原繁が1946年8月の貴族院本会議での演説で憲法前文の国際協調主義に基づいて個別的自衛権か集団的自衛権かにはこだわらず自衛権を容認していたと述べています。
「すなわち、本条章(第9条加藤注)はわが国が将来『国際連合』への加入を許容されることを予想したものと思うが、現に同憲章は各国家の自衛権を承認している。且つ、国際連合における兵力の組織は各加盟国がそれぞれ兵力を提供するの義務を負うのである。日本が将来それに加盟するに際して、これらの権利と同時に義務をも放棄せんとするのであろうかを伺いたい。かくて日本は永久にただ他国の善意と信義に依頼して生き延びんとするむしろ東洋的諦念主義に陥るおそれはないか。進んで人類の自由と正義を擁護するがために互に血と汗の犠牲を払って世界平和の確立に協力貢献するという積極的理想はかえって放棄せられるのではないか」(185頁)。
この南原演説に対し、苅部教授はこうコメントを加えています。「・・・南原が、このように『世界平和の確立』への軍事的な貢献を積極的に支持し、一国平和主義と揶揄されるような考え方を批判していたことは、いまでもふりかえるに値する事実でしょう。また、南原はこのとき国連憲章が認める『自衛権』とだけ言って、それが個別的自衛権か集団的自衛権かにはこだわらず、その行使が日本にも認められるべきだと主張しています」(185-6頁)。憲法前文の国際協調主義を重視する南原演説は、安倍の積極的平和主義の理念と全く同じといってよいでしょう。(つづく)
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