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2015-06-13 00:00
イラク、アフガニスタン、パキスタンでの戦争コスト
川上 高司
拓殖大学教授
ブラウン大学のワトソン研究所では、2001年から2014年の間のイラク、アフガニスタン、パキスタン に係る「戦争コスト」を詳細に調査し、報告書を発表した。アメリカが始めたテロとの戦争で払ったさまざまな代償が経済、環境、社会、インフラ、人、教育などに及ぼす影響について報告されている。米軍の犠牲者はおよそ6800人、コントラクター従業員が6780人とされている。もちろん怪我や後遺症に悩む帰還兵はさらに多い。だが最も犠牲を払ったのはイラクやアフガニスタン、パキスタンの一般市民だろう。3カ国で17,4000人が犠牲になったといわれている。おそらく現実にはもっと多くの市民が犠牲になっているに違いない。けがや難民となって家を追われた人々に至ってはもはや数字を挙げることすら意味がない。
イラク侵攻時には、一人のイラク人を米軍が殺害すれば少なくとも10人の敵を作ると言われていた。戦争が始まったころこどもだったイラク人は戦時下で育ち、今なにを思うのだろうか。彼らがアメリカに対して敵意を燃やしていても不思議ではない。イラクやアフガニスタン、パキスタンが受けた環境的、社会的ダメージになるとさらに今後数十年にわたって悪影響をもたらす。たとえばイラクでは大学が破壊されたり、教授たちが誘拐、殺害されたため大学が機能せず、もはや人材を育てる教育システムがない状態である。環境汚染も深刻である。アメリカの軍用車両が使用したガソリンや空爆による大気汚染は、イラクやアフガニスタンやパキスタン国民に深刻な健康被害をもたらしている。さらにコバルトなどの有害物質も大量に飛散している。イラクやアフガニスタンの状況から考えて対策が取られているとは思えない。
アメリカはイラクへの戦争を開始するとき、民主主義をもたらすためだとのウイルソン主義を振りかざしていた。今のイラクやアフガニスタンに民主主義がどれほど根付いたのだろうか。民主主義のレベルは、イラクで167国中113位、アフガニスタンは153位と最低ランクに位置する。まったくその目的は達成されていないことになる。イラクにいたってはISの台頭で安定とはほど遠い状況にある。アメリカは2001年以降、戦争に2.2兆ドルをつぎ込んだ。退役軍人への手当や医療費が今後40年間で1兆ドルになると試算されている。それらを合わせれば2001年から2054年までにかかる戦争コストは4.4兆ドルになる。アフガニスタンには駐留軍がいるため、その費用は年790億ドルと見積もられていて、コストは増える一方である。
もちろんイラクやアフガニスタンやパキスタンは社会のインフラが破壊され再建もままならない。人的社会的代償になると数字では表せない。 これほどの代償を払うことになる戦争を当時のブッシュ大統領は「正しい戦争」と言い切った。アメリカの大統領は4年の任期で終わるが、戦争の代償は結局は国民が何世代も背負っていかなければならない。戦争をするための理由に正当なものは決してない。イラク戦争開始に真っ向から反対した元軍人のオドム氏の言葉は重い。
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