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2015-05-26 00:00
地方分権は、国の専権事項の視座を欠いてはならない
牛島 薫
団体職員
僅か一万票の差であった。大阪都構想の実現を問う住民投票が行われ、橋下大阪市長は一世一代の大勝負に負けた。橋下氏が訴える行政の効率化よりも、市政における身近な福祉や利便性の低下を訴える自民・共産などの批判の方が大衆の琴線に響いたようである。橋下氏は近年最も成功した政治家の一人だったが、算盤弾きの得意な大阪の中高齢者の損得勘定を見誤ったようだ。大阪都構想自体には大きな意義があると思うが、一方で手放しに応援する気にはならない。それは、家計のレベルではなく、地方自治の側面の問題を考える場合においてである。というのも、大阪市よりはるか1200Km遠方の沖縄県の問題があるからである。
近時の橋下氏の言動やメディアの論調では、橋下氏の政治目標の原点にして頂点が大阪都構想であるようだ。ただ、この7年間の言動全体を考慮すると、そもそも大阪都構想は、橋下氏が本来目指してきた道州制の導入という壮大な計画のための一里塚であったといえよう。しかし、この道州制は、昨今の翁長沖縄県知事の振舞いを鑑みれば、良いことばかりとは必ずしも言い切れない。道州制とは、都道府県単位の地方行政を廃して、いくつかの道州に統合することで行政の効率化や権限強化をする制度である。とはいえ、道州制とは未だ煮詰められた概念ではなく、論者によって地方分権に毛が生えた程度のものから半ば自治政府のような主張まである。ただ、いずれの主張においても、道州知事の国に対する発言力は飛躍的に高まることは共通している。工夫なく移行すれば、経済政策にとどまらず外交・防衛政策に、総論賛成各論反対の姿勢を以て干渉を強める道州知事が現れることは容易に推察できよう。
それでなくとも、近年は地方の長たちのむやみな独自外交が目立つ。都知事就任直後から唐突に五輪の範疇を越える拙速な外交活動を行った舛添要一氏はもとより、何より目立つのが翁長沖縄県知事の露骨な防衛分野への干渉である。翁長氏はワンイシュー選挙で当選しているため辺野古移設問題に前のめりになるのはさもありなんだが、エスカレートに歯止めがかからない。国内にいる時は国防問題で政府批判に余念がなく、訪米に際しては独自の外交的主張を繰り広げる。一方で、訪中にあっては主権問題に関わる尖閣諸島領海侵犯について言及すべきところをせず、極めて慎重に言葉を選んでいる。その抑制的な態度をなんとか普段の取り組みでも活かしていただきたいところであった。国内法上の数多くのハードルを慎重に越えてきた政府に抜かりはないため、法廷闘争になれば翁長氏に勝ち目はない。粛々と進めれば辺野古移設はなるであろう。だからと言って、政府方針に合致しない姿勢を米中に明示し、他方大衆を煽り立てることに熱心なのは頂けない。
なぜこのような事を翁長氏が行うかと言えば、「外交」圧力をかけることによって安倍政権を従わせようとしているからに相違ないが、国と地方の争いを解決するために、もとより整備されているシステムを無視してまで大衆を煽り立てることに妥当性はない。もちろん現行憲法は第73条で外交権が国にあると明記している。都道府県知事による外交も重要だが、あくまで日本政府の外交を助長する範囲でのみ行われるべきで、二重外交が齎す災禍を思案の外においてはならない。ぜひ、翁長県知事には地方行政庁として正当な範囲内で基地問題に取り組んでほしい。地方分権の潮流は変わるまいが、特に厳しさを増す国際環境の中では、地方分権にも地方に対する国の専権事項の視座を欠かしてはならない。原発問題の様な国内問題ならまだしも、外交・防衛分野で「特殊な民意」を背負った地方行政庁に国民全体を代表する中央政府が妨げられないようにする必要性がある。地方分権やその極致である道州制を含め、国と地方のあり方というものを考えるときには、必ず考えてほしいことである。
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