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2015-05-15 00:00
(連載2)朝日の安保法制論は欺瞞的
中村 仁
元全国紙記者
安倍政権は選挙に何度か大勝し、選挙に強い政権ではあります。どうなのでしょうか。選挙に自信があるなら、今回のような戦後最大級の改革の構想をもっと早くまとめ、有権者の判断を問うべきところでした。二度にわたる衆院選、今春の統一地方選という政治的な節目を意図的に避けてきたように思います。選挙が終わり、当分、国政選挙がないころを見はからって「丁寧な説明」を受けても、有権者はどうやって自らの意思表示をするのでしょうかね。「選挙に強い」理由の半分は、選挙の際に国民的争点を必ずしも明示しないことの結果でしょう。改革案そのものも難解です。「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法案の二本建てになっています。似たような名称の法案で、どこがどう違うのかで、ほとんどの人は頭を抱えます。前者が「日本の平和と安全」(自衛隊法の改正、集団的自衛権の限定行使など)、後者が「国際社会の平和と安全」(多国籍軍への後方支援、PKO法の改正など)だと、いわれても、なかなか飲み込めませんね。メディアはもっと問題提起すべきです。
もっと訳が分らないのは、「存立危機事態」、「重要影響事態」、「武力攻撃事態」という3つの基本的な概念が登場することです。この3つはどこかで重なり合っているはずです。防衛の専門家集団は、法的に区分しないと気がすまないのでしょう。武力攻撃がどこかで発生するから、日本にとっての「存立危機事態」や「重要影響事態」が発生するのでしょう。「存立危機事態」と「重要影響事態」も同じ意味か、同根でしょう。区分が専門的すぎて、われわれはついていけません。新しい安保法制下の運用面でも、分らないことがたくさんあります。日本にとっても緊急事態の際、どうやって情報を掌握するのでしょうか。日本独自に把握できる事態もあれば、米軍の情報力に依存しなければならない事態もあります。米国を全面的に信じていいのでしょうか。対米協力と全面的な対米依存とは異なります。
イラク戦争では、大量破壊兵器の存在が喧伝され、フセインを攻撃する口実にされました。ふたを開けてみれば、そんなものはないことが分り、その後、イラクの混乱が現在の混迷する中東情勢の重要な一因を作りました。イラク戦争を当初、全面的支持した日本政府もメディアも冷静に自己検証したかといえば、そうではないでしょう。当時はフセインが極悪非道の大統領というイメージが定着し、それに異議を唱えることは国内的にも国際的にもできにくいという雰囲気でした。国際紛争が起きると、流れには抗しきれないという空気ができてしまいがちです。ここは要注意ですね。
政治、経済のボーダーレス化、相互依存の深まりの中で、一国の安全保障を一国だけでやり遂げることは難しくなりました。米国の力の低下、中国の軍事的膨張、それに乗じた国際紛争の複雑化の中で、日本も国際協力の新たな枠組みを用意すべきです。その場合、紛争に絡む正確な情報収集、情報に対する冷静な判断能力、それを踏まえ日本の国益をどう保っていくかが、法整備以上に大切だということです。(おわり)
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