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2015-04-03 00:00
(連載1)旅券返納問題はジャーナリストの役割低下の証左
加藤 朗
桜美林大学教授
日本政府が、シリア行を計画していたフリー・カメラマンの旅券を強制的に返納させたことに賛否が渦巻いている。私の基本的立場は、個人の自由の権利は何人たりとも犯すことはできない、ということにある。したがって、日本政府の決定は明らかに誤りであり、直ちに旅券を持ち主に返すべきである。その上で、報道、行動の自由の問題とは別の視点から、シリア入国の問題を取り上げてみたい。それは、ジャーナリストの役割である。
ところで件のカメラマンはどこから、どのようにシリアに入国するつもりだったのだろうか。トルコ国境から入るなら、シリア政府の国境管理は行われていないから、シリア政府にとってはトルコ国境からの入国は不法入国である。
つまり日本政府は、正式国交のある国家に日本国民が不法入国するのを知りながら、それを看過することは許されるのだろうか。万一不法入国すれば、「イスラム国」だけではなくシリア政府にも捕まる懼れ(もっともアサド政権はもはやダマスカス地域しか支配していないから蓋然性は限りなく0に近いが)があった。カメラマンは不法入国は当然と考えていたのだろうか。
他方、日本人人質事件が起きていた同じ時期に『朝日新聞』の記者がシリア入りしていたことで、政府はもとより同業の読売、産経が朝日を非難した。全く的外れの非難である。朝日の記者はシリアのプレス・ビザをもって正式に入国しているのである。ある意味、シリア政府が彼らの身の安全を保証している。その代わりに記者の行動の自由や取材の自由は制限されているはずである。当該国政府が認めた取材活動まで危険だからと言って規制しようとするのは全くお門違いだ。朝日の記者が非難されるとしたら、当局の監視つき取材ツアーで本当に取材ができるのかという問題であろう。(つづく)
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