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2015-03-27 00:00
(連載2)安倍ドクトリンの問題
加藤 朗
桜美林大学教授
抑止力の信頼性に関してはもう一つの問題がある。それは、どこまでアメリカに協力すればアメリカによる抑止が確実になるかはわからないことだ。抑止を確実にするために日本はアメリカに際限なく追随することになり、かえって日本の安全保障にマイナスになるかもしれない。特に国際安全保障分野での対米協力である。もし再びイラク戦争のような武力紛争が起こり、アメリカが有志連合への協力を要請してきた場合、集団的自衛権の行使を容認した以上、かつてのイラク支援のような憲法を盾にして復興支援だけで済ませるというわけにはいかない。より積極的に軍事面で対米協力をすれば、アメリカの武力紛争に巻き込まれてしまう恐れがある。
他方アメリカにとっても、日本への協力がアメリカの国益を損なう恐れもある。尖閣問題が典型である。アメリカは尖閣を第一次世界大戦の契機となった第二のサラエボにするつもりはない。他方日本は尖閣を、国際社会が事実上併合を認めてしまった第二のクリミアにするつもりはない。日米双方で国益の違いから、抑止力の信頼性に疑問符が付く場合がある。
安倍ドクトリンの最大の問題は、安倍首相が描く将来日本の国家像が不明なことである。吉田ドクトリンは、経済優先という国家目標があった。では安倍ドクトリンには具体的にどのような国家目標があるのだろうか。安倍首相は日本をどのような国家にしようとしているのかがわからない。かつては「美しい国」であり、今では「強い国」であり、そして「強い国を取り戻す」というのが安倍首相の国家目標のようである。しかし、災害に強い国を取り戻すことはできても、中国の経済発展や軍事強化を考えると、二度と世界第二の経済大国という座を取り戻すことはできないし、ましてや軍事力で強い国になることなどあり得ない。
国家には国際秩序を形成する能力のある大国、その国際秩序を維持する能力のある中級国家、そしてその国際秩序に追随する能力しかない小国の三種類がある。戦前の日本は国際秩序を形成する能力のある大国だった。しかし、第二次世界大戦でドイツと共に新たな国際秩序形成に失敗し小国へと転落した。幸いにも戦後経済大国として復活したが、その実態はアメリカが形成した国際秩序を維持する中級国家でしかなかった。慶応大学の添谷芳秀教授が『日本の「ミドルパワー」外交』(ちくま新書、2005年)で指摘するように、吉田ドクトリンはまさに中級国家戦略だったのである。安倍ドクトリンは、はたして戦前のような大国日本の復活を目指しているのだろうか。それとも世界の大国でもアジアの指導国でもない日本の現状を踏まえ、身の丈にあった中級国家を築こうとしているのか。坂の上にもう雲はない。安倍首相がそれを見たとするなら、蜃気楼にしか過ぎない。(おわり)
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