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2015-01-29 00:00
イスラム国の巧妙なネット戦略に翻弄される日本
加藤 朗
桜美林大学教授
イスラム国に囚われた人質の一人湯川遥菜氏が殺害された。口にこそ出さなかったが、イスラム国の本気度を日本政府に見せつけるために、一人が殺害されるのではないかと多くの識者が懸念していた。結局その通りになった。とはいえ殺害されたのがなぜ湯川氏だったのか。この背景には、ネットの情報が大きく影響していたのではないか。もう一人の人質である後藤健二氏は、外国特派員協会での母親の記者会見やニューヨーク在住の映像ジャーナリスト西前拓氏が「私は健二」というプラカードを掲げるなど、後藤氏救出の動きが顕著になった。それに引き換え、湯川氏には解放を求める動きはなかった。それどころか、湯川氏は犠牲になっても仕方がないといった書き込みさえネットに出てきた。
こうした情報は、すべてイスラム国に伝わっていたのではないだろうか。中東では衛星放送が主要な情報メディアである。CNN、BBCはもちろんNHK国際放送も受信できる。日本の情報が英語で伝えられえているのである。また中東のアラビア語の放送局も事件の概要を伝えている。イスラム国が日本政府の動きや世論の動向を知ろうと思えば意図も簡単に入手できるだろう。むしろテレビよりも重要なのは、ネットによる情報である。イスラム国がメッセージを日本政府に送り付けているのはネットである。しかも、人質家族に直接メッセージを送りつけたり、あるいは、YOUTUBEで不特定多数にメッセージを公表している。情報発信の巧妙さに、日本政府や日本国民は文字通り翻弄されている。脅迫状や電話あるいはビデオが犯人側からのメッセージの伝達手段であった昔を考えると隔世の感がある。
情報発信だけではない。ネットは犯人側に情報収集も可能にした。今回の事件に関して、日本では大量の情報がネットにあふれた。これらの情報のほとんどが日本語である。だからイスラム国には日本の世論が事件をどのように見ているかわからないと多くの人は思うだろう。そうではない。日本語を英語やアラビア語に翻訳するソフトはグーグルにある。細かなニュアンスは伝わらなくても概略はわかる。あるいは、フェイスブックやツイッターでボランティアの翻訳者を募ることもできる。また日本国内にも反米、反安倍を理由にイスラム国を支持する者や同情する者がいる可能性は高い。いずれにせよ日本側の情報は筒抜けだと考えたほうがよい。
イスラム国が身代金要求を取り下げて人質の交換を要求してきた背景には、高額な身代金の支払いに否定的な日本政府や世論の動向を熟知したからではないか。また一部のメディアや政治家などが事件を利用して反安倍、反政府、倒閣運動を画策していること察知して、身代金より現実的と思われる人質交換に戦術を切り替えたのではないか。イスラム国は、日本側の手の内を熟知している。それに引き換え日本政府はイスラム国に対する情報はほとんど持っていないようだ。テレビなどの既存メディアやスパイに頼る従来の情報発信や情報収集は、ネットが地球上を覆い尽くす現在もはや時代遅れかもしれない。
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