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2015-01-20 00:00
ピケティ氏の定理で読み解く日本の格差の“元凶”と安倍政権
田村 秀男
ジャーナリスト
格差問題を取り上げた仏経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」が世界的なベストセラーになっている。そのコアは「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」という定理だ。日本はどうか。法人企業統計(財務省)からとった総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。1997年度以降、資本収益率が実質成長率を一貫して上回っている。
それまでは、おおむね成長率の方が収益率を上回ってきた。下回ったときは石油危機、プラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊というふうな「ショック効果」と言うべきで、成長率は1、2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティ氏の定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差」の時代に突入したことになる。97年度といえば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、いまなお抜け出られないでいる。デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。
デフレで売上額が下がる中小企業の従業員は、賃下げの憂き目に遭いやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。慢性デフレの局面で、とられたのが「構造改革」路線である。97年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は米国からの各種改革要求に応じた。製造業の派遣労働解禁(04年)など非正規雇用の拡大、会社法(06年)制定など株主中心主義への転換などが代表例だ。法人税制は98年度以降、02年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバルな企業の事業展開を後押ししている。大企業や銀行の国内外からの配当収入はほぼ無税だ。
このパターンでは経済成長率を押し上げる力が弱い。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金はマイナス、配当はプラスでも需要減・デフレ・賃金下落という悪循環だけが残る。安倍晋三首相が本格的に取り組むべきは、20年間の日本経済の基本路線となってきた格差拡大経済に決別し、旧世代や次世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか。
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