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2015-01-14 00:00
日本に必要なのは「数字」ではなく「成長の物語」
田村 秀男
ジャーナリスト
今年は、エネルギー価格の下落で円安に伴うコスト増を相殺できる。1ドル=120円の水準で輸出もかなり増えてゆくだろう。好環境のもとで企業側としてはいかに需要を引き出し、抱える人材に生きがいをもって働いてもらうか、前向き思考に転じる時機だ。企業に今必要なのは目先の収益率などの「数字」ではなく、「成長の物語」ではないだろうか。金利は実質マイナスなのに、民間がカネを使わないこと自体が不合理だ。デフレに慣れ切ってしまって、カネ、ヒト、モノを動かす物語がなさ過ぎる。
東京・日比谷公園や箱根・彫刻の森美術館には直径1・5メートルほどの円形の石が横たわっている。石は、南太平洋ヤップ島(現ミクロネシア連邦)で戦前まで貨幣として使われていた。ヤップの石貨の値打ちはその所有者が口伝えで先祖から受け継いできた物語の内容で決まったという。大海原の彼方の島からどうやって切り出して、カヌーで運び込んだか、彫刻したかという具合である。嵐に遭って海底に沈んでも口伝の物語さえあれば、実物の石貨と同じ価値が認められた。この実話を、かのマネタリストの元祖、ミルトン・フリードマン教授が自身の論文で紹介したのが面白い。教授はマネー量を重視する一方で、経済価値というのは人々が共有する物語から生まれるという真理を見抜いていた。
企業の成功ケースには必ず物語がある。逆になくなると、凋落が始まる。かのアップルはスティーブ・ジョブズ氏亡きあと、新しい物語をどうつくるか苦闘中だ。ソニーは井深大氏、盛田昭夫氏の後、物語が消えた。トヨタはその点、創業者以来、経営首脳が交代しても、新たな物語を紡ぎ続けている。韓国では、イ・ビョンチョル氏が創業したサムスン・グループを引き継いで、新たな物語を創造してきたイ・ゴンヒ サムスン電子会長が病床にある。三代目になっても物語はまだ続くだろうか。地方創生物語といえば、壮大でなくていい。東京・秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」は大手の問屋が扱わないまま埋もれていた全国各地の名産品を発掘し、「昔ながら」のデザインで販売する。生産者は老いも若きも売り場に立って、訥々とお客さんに商品の由来や特徴を物語ってみる。
超円高期に廃業が相次いだ愛媛県の「今治タオル」の場合、2007年の商標登録を契機に、「タオル・ソムリエ」資格制度を設け、ソムリエたちがタオルをつくる自然、歴史など文化的背景を語って全国の消費者を引き寄せている。中国に生産を移した業者は、地元に回帰し始めた。投資ファンドという絶対的な株主の顔色をうかがい、目先の収益率にばかり眼を向ける米英型金融資本主義に、日本は過去20年も傾斜してきた。結果はゼロ成長と格差拡大である。新自由主義に決別し、民間が物語を創造する経済モデルでデフレを克服し、成長を取り戻そうではないか。
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