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2014-12-28 00:00
韓国人研究者との交流に寄せて
池尾 愛子
早稲田大学教授
12月6日、ソウル国立大学校の林采成氏に、「三陟(サムチョク)炭田の開発と石炭輸送:日本電力による植民地朝鮮の資源開発史」と題する公開講演を学内で行っていただいた。微妙な時代を扱う専門性の高い研究に基づく講演になることがわかっていたので、正直なところ、私自身は当該分野の専門家以外の方々には積極的に宣伝しなかった。もちろん専門的関心のある方々に満足してもらえる内容であり、公開講演の形をとってよかったと考えている。
三陟は江原道(カンウォンド)東部の山岳地帯に位置し、解放後の韓国にとって数少ない炭田となった(炭田は北部側に偏在していた)。開放前の同炭田の資料は研究者なら自由に利用できる。林氏は、韓国、日本、アメリカで収集した資料を駆使して、同炭田開発やそこで採れた石炭の輸送、労働者の動向を明らかにした。一方で、三陟の石炭はもっぱら日本本土に輸送するとの取決めで開発が行われた。他方で、三陟で経験を積んだ労働者たちは労働条件が良かった日本本土の炭田に転職する傾向が見られ、いわゆる市場メカニズムが作用していたことが明らかにされた。そして、三陟の石炭の輸送は船舶に頼っていたので、日本の船舶数が減少するにつれて輸送が困難になった。フロアから、船舶数減少によって石炭輸送が困難になる状況は日本本土でも見られ、そこでは鉄道輸送に切り替えられたものの輸送量は船舶輸送には遠く及ばず、石炭利用については、その輸送でボトルネックが発生していたことが指摘された。
日本、韓国、台湾(中華民国)、アメリカなどにある日本関連資料は内外の研究者に公開されている。最近では、頻繁に利用される資料については電子化されてウェブ上での公開も進んでいる。日本の民間企業にも文庫をつくって惜しみなく内外の研究者に協力しているところもある。中国本土に残されているはずの日本関連資料が、外国人研究者に非公開になっていることが話題を呼んでいる。中国本土では、中国の経済データなどもランクの高い共産党員しか利用できないようなので、一般研究者は中国のデータや資料にアクセスできない可能性があると、日本人研究者から聞かされた。データや資料が必要な分野において、中国人研究者たちの研究水準が低いことがあるのは、決して彼らだけに責任があるのではない。
現在では、中国本土で研究の自由や学問の自由が制限されていることを知らない人はいないであろう。私自身は招かれた時にしか訪中しないが、社会科学分野での研究や学問に対する規制がゆっくりと緩和されてきていることを感じているので、こうした規制緩和が進む限り、研究交流は続けていこうと考えている。しかし、厳しい規制が残っている分野があるかもしれない。例えば、ある大学のラテンアメリカ研究所では、中国にあるラテンアメリカ諸国の大使館と連絡をとって研究を進めているとのことであった。それゆえ、中国人研究者との交流を熱望する場合には、大使館を通して連絡を取るなどの工夫をしてみてはいかがだろうか。そうすれば、「岩盤規制」があるかどうかも確かめやすいのではないだろうか。そして、中国人研究者たちも外国で安心して各自の研究を進められるのではないだろうか。
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