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2014-11-28 00:00
量的緩和効果の日米比較
田村 秀男
ジャーナリスト
黒田東彦日銀総裁は先月末、最後の賭けに出た。長期国債買い入れ額を年50兆円から80兆円に増やす一方、日本株連動の上場投信(ETF)の買い入れ額をこれまでの3倍の年3兆円とする。国債買い入れは、政府の一般会計向け国債発行額(2014年度41・2兆円)の倍近い。株式市場でも日銀が信託銀行をしのぐ主購入機関になる。来年末には国内総生産(GDP)の7割超のマネーが刷られてマーケットにあふれ返る。米国が資金追加発行を先月末でやめたこともあって、円はドルに対して大幅に安くなる。円安にせかされて株価が上がるが浮かれるな。それで経済は安定成長できるのか。
黒田日銀が念頭に置いているのは、米国の量的緩和の成功だ。米FRB(連邦準備制度理事会)はリーマン・ショック後の3次にわたる量的緩和政策によって、株価を押し上げ、その株価が先導する形で景気を上昇軌道に乗せた。米国では中央銀行がお札を刷ってマーケットにばらまけば、景気がよくなるのだ。日本の場合はどうか。これまでの2年間の日銀資金供給量、株価、物価の推移を追うと、筆者の試算では、日銀資金100の増加に対し、日経平均株価上昇幅は異次元緩和開始の2013年4月から同年末まで実に100前後、消費税増税実施の今年4月以降9月までの日経平均上昇幅は55~60で推移している。黒田日銀はこの「成功体験」をもとに、緩和を大胆なまでに拡大して、一気呵成(かせい)に脱デフレを実現しようと狙う。黒田氏が「中央銀行総裁として歴史に名を残すか」とつぶやくゆえんである。
だが、米国と日本には決定的な違いがある。日本の消費税増税、もう一つは株価への実体景気の反応度は米国が圧倒的に高いのに、日本では極めて弱い。物価は円安と4月の消費税率アップのダブル効果で3%台半ばまで一気に上昇し、実質賃金の下落を招き、需要を押し下げている。日銀はデフレ圧力の高まりを懸念し、緩和強化に追い込まれた。原油価格下落も要因というが、主因は消費税増税だ。
財務官僚上がりの総裁は、これまで増税推進に回ってきた。今回も異次元緩和拡大を増税の地ならしにするようだと、経済は元の木阿弥。予想される結末は恐るべしだ。円安の行き過ぎによる悪性インフレと景気悪化の同時進行、即ちスタグフレーション。急騰した株式はバブルとなって崩落。アベノミクスは地に落ち、安倍晋三政権は日本国民を道連れに崩壊する。内閣参与の本田悦朗静岡県立大教授や浜田宏一エール大名誉教授は、異次元緩和を強化しても、来年10月に予定される税率10%実施時期を1年半延ばすべきだと主張している。黒田総裁は消費税再増税について「政府が決めること」と、今度ばかりは距離を置くが、歴史に名を残したければ、両参与に同調すべきだ。
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