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2014-11-19 00:00
安倍は解散の大義を言い切れなかった
杉浦 正章
政治評論家
解散の大義を言うかどうかが焦点となった11月18日の記者会見だったが、首相・安倍晋三の主張にはやはり無理があった。安倍の大義は消費増税を1年半延期し、2017年4月に10%に引き上げ、同時にアベノミクスの是非を問うというものであったが、空々しい。なぜかというと本音を語っていないからである。この解散の「手口」は明らかに師匠の小泉純一郎が郵政法案で使ったやり口だ。参院での同法否決を理由に衆院を解散するという無理矢理解散の手法と酷似している。加えて注目されるのは進退を問われる選挙の勝敗ラインを過半数238議席に設定したことだ。しかも公明党と合わせての数だ。これは大敗しても辞めない姿勢を浮き彫りにするものである。誰もがふに落ちないのは大義を、あまりにも自己都合に設定していることだろう。安倍の支持率は50%前後と極めて高い。支持率が高いということが何を意味しているかと言えば、政策を国民が支持していることに他ならない。その政策の中核は外交安保政策に加えてアベノミクスにある。国民は改めて解散・総選挙でアベノミクスの是非を問う必要がないと判断しているのだ。
それでもやる背景には政権維持への政局上の思惑が大きく絡んでいる。思惑とは支持率が高く、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙をやった方が長期政権につながるという個利個略だ。また小泉が反対派を黙らせることを狙ったように、自民党内の増税実施派を黙らせるための絶好の手法と考えたフシもある。事実、だらしがないことに財務省に踊らされて実施論だった幹事長・谷垣禎一や税制調査会長・野田毅は、節操もなく事実上黙ってしまった。2閣僚辞任など悪い雰囲気もこの際一掃したいという狙いもあるのだろう。安倍周辺は「総選挙を経ればリセットでき4年間の安定を確保出来る」と述べているが、この長期政権狙いの戦略にも疑問がある。政局はリセットされないからだ。来年早々には原発が再稼働し、4月には統一地方選挙があり、選挙後は集団的自衛権の法整備が待っている。野党は普通、総選挙後はトーンダウンするのが通例だが、これらの課題を前にすれば、かさにかかって対決姿勢を前面に出すことは確実だ。さらに消費税は延期に視点が移りがちだが、安倍の発言によれば「2017年4月の(税率)引き上げは確実に実施する」のであり、これは2年5か月後の10%への増税を確定させたことに他ならない。国会は増税を巡る論議に発展せざるを得ないのだ。
「4年間の安定」も絵に描いたもちにすぎない。自民党の減り方によっては安定どころではなくなる恐れがある。要するに、294議席のまま政権運営した方が安定するか、総選挙の洗礼を受けた方が安定するかの選択であった。筆者はどう見ても前者の方が安定すると思う。294議席は本来少なくとも3年間は選挙をしないで済む議席であり、国民が混乱続きの民主党政権の政局のごたごたに強く反発して選択したものであった。もともと消費税法に書いてある延期をしたからといって、数を減らして政局を流動化させるような選択は、多くの国民が望んではいないのである。安倍が政治家なら自民党内の増税派を説得したうえで延期に踏み切るのが筋であろう。それを説得なしのいきなり解散は短絡そのものであり、小泉的な政治手法の踏襲だ。しかし安倍に欠けているのは小泉の「劇場型政治」手法であり、小泉はこれで選挙に勝った。しかしこればかりは小泉の天性であり、安倍は真似することが出来ない。
安倍は会見で勝敗ラインを問われて「自民党、公明党の連立与党によって過半数を維持できなければ、三本の矢の経済政策、アベノミクスも進めていくことはできない。過半数を得られなければアベノミクスが否定されたことになるから、私は退陣する」と言明した。自民・公明両党で過半数である238議席以上の獲得が出来なければ退陣するというのだが、このハードルは冒頭述べたように低すぎる。公明党の過去5回の選挙結果を見れば、第45回の21議席以外は42回32議席、43回34議席、44回31議席、46回31議席と全て30議席を上回っている。平均は30議席である。安倍の発言では公明の30議席を差し引いて、自民党が208議席まで86議席も減らしても退陣しないといっているに等しい。ここまで議席を減らした首相が政権を維持したケースは過去にない。常識的な勝敗ラインは自民党単独で269の安定議席を確保出来るかどうかが焦点であろう。無理矢理解散である以上、目減りは25議席程度が許容範囲だろう。
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